債権法改正 要綱仮案 情報整理

第17 多数当事者

8 不可分債権

 民法第428条の規律を次のように改めるものとする。
 債権の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債権者があるときは、各債権者は全ての債権者のために履行を請求し、債務者は全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。

中間試案

9 不可分債権
 (1) 民法第428条の規律を改め,数人が不可分債権を有するときは,その性質に反しない限り,連帯債権に関する規定を準用するものとする。
 (2) 民法第431条のうち不可分債権に関する規律に付け加えて,不可分債権の内容がその性質上可分となったときは,当事者の合意によって,これを連帯債権とすることができるものとする。

(概要)

 本文(1)は,連帯債権と不可分債権とは,債権の内容が性質上可分であるか不可分であるかによって区別されることを前提に(前記6),不可分債権について,その性質に反しない限り,連帯債権に関する規定を準用するとするものである。
 本文(2)は,不可分債権の債務者及び各債権者は,不可分債権の目的が不可分給付から可分給付となったときに,当事者の合意によって当該債権は連帯債権となることを定めることができるとするものである。これは,不可分債権が可分債権となったときは,各債権者は自己が権利を有する部分についてのみ履行を請求することができると規定する民法第431条について,当事者の意思に反する場合があるという問題点が指摘されていることによる。

赫メモ

 要綱仮案は、民法428条を基本的に維持し、連帯債権と不可分債権とは,債権の内容が性質上可分であるか不可分であるかによって区別されることを前提に、意思表示による不可分債権については定めを置かないことにするものである。
 中間試案9(2)の規律については、当事者の意思表示によって連帯債権とすることができることは要綱仮案6で定められており、それとは別に定めを置く必要性がないことから、当該規律を設けないこととされた。
 なお、民法429条については維持される。

現行法

(不可分債権) 
第428条 債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において、数人の債権者があるときは、各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
(不可分債権者の一人について生じた事由等の効力)
第429条 不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても、他の不可分債権者は、債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては、その一人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与される利益を債務者に償還しなければならない。
2 前項に規定する場合のほか、不可分債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は、他の不可分債権者に対してその効力を生じない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【不可分債権者の一人と債務者との間に混同が生じても,他の不可分債権者は債務の履行を求めることができる】最高裁昭和36年3月2日判決・民集15巻3号337頁
  土地所有者Aが建物所有者Bに対して明渡訴訟を提訴し勝訴判決を得た。その後,Aが死亡し,土地所有権はA1・A2が相続により取得した。Bは,A1から土地の共有持分を取得した。
  Bは,土地の共有権者となると同時に土地明渡請求権という不可分債権の準共有者となったところ,債権債務が全く同一人格者に帰し混同を生じた場合とは異なり,A2は,民法429条の法意に従い,Bに対し本件債務名義上の権利を行使することができる。

A 【不可分債権に関して混同が生じても不可分債権者は全額の請求ができる】東京地裁平成16年8月25日判決・LexisNexis独自収集判例
  相続によってA1・A2,Bが所有者となった土地上にB所有の建物が存していた。BがA1・A2に対して,賃借権の確認を求めた裁判である。
  Bの賃借権を認めることができ,Bは相続によって賃貸人たる地位と賃借人たる地位を保有することとなり,これらの地位は混同が生じているが,共同相続によって賃貸人が複数となった場合の賃料債権は不可分債権となるため,A1・A2の賃料債権は混同によって影響を受けない(民法429条2項)。