債権法改正 要綱仮案 情報整理

第18 保証債務

3 保証人の求償権
(3) 保証人の通知義務(民法第463条関係)

 民法第463条の規律を次のように改めるものとする。
ア 保証人(主たる債務者の委託を受けて保証をした者に限る。)が弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせた場合において、保証人がその旨をあらかじめ主たる債務者に通知していなかったときは、主たる債務者は、債権者に対抗することができる事由をもってその保証人に対抗することができる。この場合において、相殺をもって保証人に対抗したときは、保証人は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
イ 保証人が弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせた場合において、保証人がその旨を主たる債務者に通知することを怠ったため、主たる債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、主たる債務者は、保証人が主たる債務者の意思に反して保証をした者でないときであっても、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。
ウ 主たる債務者が弁済をし、その他自己の財産をもって免責を得た場合において、主たる債務者がその旨を保証人(主たる債務者の委託を受けて保証をした者に限る。)に通知することを怠ったため、当該保証人が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、その免責を得た保証人は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。

中間試案

3 保証人の求償権
 (2) 保証人の通知義務
   民法第463条の規律を次のように改めるものとする。
 ア 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,保証人が弁済その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせる行為をしたにもかかわらず,これを主たる債務者に通知することを怠っている間に,主たる債務者が善意で弁済その他免責のための有償の行為をし,これを保証人に通知したときは,主たる債務者は,自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。
 イ 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,主たる債務者が弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたにもかかわらず,これを保証人に通知することを怠っている間に,保証人が善意で弁済その他免責のための有償の行為をし,これを主たる債務者に通知したときは,保証人は,自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。
 ウ 保証人が主たる債務者の委託を受けないで保証をした場合(主たる債務者の意思に反して保証をした場合を除く。)において,保証人が弁済その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせる行為をしたにもかかわらず,これを主たる債務者に通知することを怠っている間に,主たる債務者が善意で弁済その他免責のための有償の行為をしたときは,主たる債務者は,自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。

(概要)

 保証人の事前の通知義務(民法第463条第1項による同法第443条第1項前段の準用)は,廃止するものとしている(連帯債務者間の事前の通知義務の廃止について前記第16,4(2)参照)。委託を受けた保証人については,履行を遅滞させてまで主たる債務者への事前の通知をする義務を課すのは相当ではないという問題点が指摘されており,また,委託を受けない保証人については,主たる債務者が債権者に対抗することのできる事由を有していた場合には,事前の通知をしていたとしてもその事由に係る分の金額については求償をすることができない(同法第462条第1項,第2項)のであるから,これを義務づける意義が乏しいという問題点が指摘されていることを考慮したものである。
 その上で,本文アは,委託を受けた保証人と主たる債務者との間の事後の通知義務に関する規律として,先に弁済等をした保証人が事後の通知をする前に,後に弁済等をした主たる債務者が事後の通知をした場合には,主たる債務者は,自己の弁済等を有効とみなすことができるものとしている。委託を受けた保証人に関して,連帯債務者間の事後の通知義務の見直し(前記第16,4(2))と同様の見直しをする趣旨である。
 本文イは,委託を受けた保証人がある場合に,先に弁済等をした主たる債務者が事後の通知をする前に,後に弁済等をした保証人が事後の通知をしたときについて,保証人は,自己の弁済等を有効とみなすことができるものとしている。現行の民法第463条第2項に相当するものである。
 本文ウは,主たる債務者の委託を受けないが,その意思に反しないで保証をした保証人の事後の通知義務に関して,現行の民法第443条第2項(同法第463条第1項で保証人に準用)の規律を維持するものである。
 なお,主たる債務者の意思に反して保証をした保証人については,事後の通知義務を廃止するものとしている。この保証人は,事後の通知をしたとしても,主たる債務者が求償時までに債権者に対抗することのできる事由を有していた場合には,その事由に係る分の金額については求償をすることができない(民法第462条第2項)のであるから,事後の通知を義務づける意義が乏しいという問題点が指摘されていることによる。

赫メモ

 要綱仮案(3)アは、民法443条1項を準用する同法463条1項を基本的に維持したうえで、主たる債務者の委託を受けて保証した者以外の保証人については当該規律の対象から除外している。これは、かかる保証人については、そもそも、同法462条1項及び2項により、求償権の範囲が制限されるから、通知をしないことを理由とする求償権の範囲の制限に関する定めを置く理由がないからである。また、また、請求があったことを通知するのではなく、弁済をすることをあらかじめ通知するのが妥当であるので、この点も従前の規律を改めている。
 要綱仮案(3)イは、主たる債務者の意思に反して保証をした保証人については、そもそも、民法462条2項により、求償権の範囲が制限されるから、通知をしないことを理由とする求償権の範囲の制限に関する定めを置く理由がないので、その対象から除外するものである。
 要綱仮案(3)ウは、民法463条2項の内容を維持するものであり、その内容を書き下したものである(以上につき部会資料80-3、15頁)。

【コメント】
 最判昭和57年12月17日(要綱仮案第17、4(2)、参照)の判例法理は維持されるものと解される。

現行法

(通知を怠った保証人の求償の制限)
第463条 第四百四十三条の規定は、保証人について準用する。
2 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、善意で弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、第四百四十三条の規定は、主たる債務者についても準用する。

(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)
第443条 連帯債務者の一人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、過失のある連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
2 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、その免責を得た連帯債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり