債権法改正 要綱仮案 情報整理

第21 債務引受

2 免責的債務引受の成立
(1) 債権者と引受人との契約による免責的債務引受

 債権者と引受人との契約による免責的債務引受の成立について、次のような規律を設けるものとする。
ア 免責的債務引受によって、引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。
イ 免責的債務引受は、引受人と債権者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約が成立した旨を通知することによって、その効力を生ずる。

中間試案

2 免責的債務引受
 (1) 免責的債務引受においては,引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の債務を引き受け,債務者は自己の債務を免れるものとする。
 (2) 免責的債務引受は,引受人が上記(1)の債務を引き受けるとともに債権者が債務者の債務を免責する旨を引受人と債権者との間で合意し,債権者が債務者に対して免責の意思表示をすることによってするものとする。この場合においては,債権者が免責の意思表示をした時に,債権者の引受人に対する権利が発生し,債務者は自己の債務を免れるものとする。
 (3) 上記(2)の場合において,債務者に損害が生じたときは,債権者は,その損害を賠償しなければならないものとする。
 (4) 上記(2)のほか,免責的債務引受は,引受人が上記(1)の債務を引き受けるとともに債務者が自己の債務を免れる旨を引受人と債務者との間で合意し,債権者が引受人に対してこれを承諾することによってすることもできるものとする。この場合においては,債権者が承諾をした時に,債権者の引受人に対する権利が発生し,債務者は自己の債務を免れるものとする。

(概要)

 本文(1)は,免責的債務引受においては,引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の債務を引き受け,債務者は自己の債務を免れるという免責的債務引受の基本的な効果についての規定を設けるものである。
 本文(2)と(4)は,免責的債務引受の要件について規定するものである。免責的債務引受は,債権者,債務者及び引受人の三者間の合意は必要ではなく,債権者と引受人との合意か,債務者と引受人との合意のいずれかがあれば成立することが認められている。しかし,債権者と引受人との合意のみによって免責的債務引受が成立することを認めると,債務者が自らの関与しないところで契約関係から離脱することになり不当であると指摘されている。本文(2)は,この指摘を踏まえて,債権者と引受人との合意に加えて,債権者の債務者に対する免責の意思表示を要件とするとともに,本文(3)では,免除の規律(後記第25)と平仄を合わせて,免責的債務引受によって債務者に生じた損害を債権者が賠償しなければならないこととしている。

赫メモ

 要綱仮案(1)アは、中間試案2(1)に関する中間試案概要のとおりである。
 要綱仮案(1)イは、債権者と引受人との合意によって免責的債務引受が成立するとした上で、債権者又は引受人が債務者に対して合意の成立を通知することによって、免責的債務引受の効果が生ずることとするものである。判例は、第三者の弁済(民法474条)や債務者の交替による更改(同法514条)と同様に、債務者の意思に反する免責的債務引受は認められないとしていると言われるが(大判大正10年5月9日)、免除について債務者の意思に反してもすることができるとされていることとの整合性を欠き、不当である等の批判があることから、債務者の意思に反しないことを要件としていない。債務者に対する通知を効力発生要件としているのは、免除もその意思表示が債務者に到達することが必要であるのと同様に、債務者が知らないうちに契約関係から離脱することになるのを防止する趣旨である(部会資料67A、36頁)。

【コメント】
 要綱仮案(1)イは、免責的債務引受けを、併存的債務引受けに債権者による免除の意思表示が付加されたものと見る立場を採用していないことは明らかであり、効力発生要件である、債務者に対する通知がなされない場合に、当然に、併存的債務引受けの限りで効力を生じるといった解釈論を採り得ないことは明らかである。
 債権者と引受人との契約のみにより免責的債務引受けは成立しているとの前提のもと、仮に通知を効力発生要件とする方針をとるとしても、通知の主体を債権者に限定する合理的理由はなく、債権者「または引受人」による通知で足りるものとすべきであり、この点において要綱仮案の規律には疑問がある。
 見ず知らずの人から、免責的債務引受けの通知があった場合に債務者が対応に苦慮する弊害を考慮して債権者からの通知を要求したとのことだが(法制審部会第79回会議議事録45頁以下、中田委員発言を踏まえて債権者からの通知に限定された模様である。)、通知を不審に感じた債務者は、債権者に確認すれば足りることであるし、あるいは債務者が通知を信頼せずに債権者に弁済したとしても、そのことによる不利益は生じない(引受人に対して二重払いしなければならなくなるような余地はない。要綱仮案3(1)参照)。
 むしろこのような規律が存在することにより、債務者の意を受けた引受人と債権者との間で免責的債務引受けが成立するという一般的な場面において、債権者が通知を意図的に遅らせるなどして、免責的債務引受けの効力発生時期をコントロールできることになりかねず、不合理性は明らかである。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債権者,B=債務者,C=引受人)
【債務引受は債務者の意思に反しない限りなしうる】大審院大正10年5月9日判決・民集27輯899頁
 AC間において,AがBに売却した日用品についてCが支払う旨の合意がなされていた。
 (免責的)債務引受契約は,債務者の利益になるものであり,必ずしも債務者の同意が必要というわけではない。したがって,債務者の意思に反することがない限りなしうる。