債権法改正 要綱仮案 情報整理

第35 請負

2 仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の請負人の責任
(3) 仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の注文者の権利の期間制限(民法第637条関係)

 民法第637条の規律を次のように改めるものとする。
 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡した場合(引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合)において、注文者がその不適合の事実を知った時から1年以内に当該事実を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由とする修補の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、請負人が引渡しの時(引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)に目的物が契約の内容に適合しないものであることを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときは、この限りでない。

中間試案

2 仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の請負人の責任
 (3) 仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の注文者の権利の期間制限(民法第637条関係)
   民法第637条の規律を次のいずれかの案のように改めるものとする。
  【甲案】 民法第637条を削除する(消滅時効の一般原則に委ねる)ものとする。
  【乙案】 消滅時効の一般原則に加え,仕事の目的物が契約の趣旨に適合しないことを注文者が知ったときから[1年以内]にその適合しないことを請負人に通知しないときは,注文者は,請負人に対し,その適合しないことに基づく権利を行使することができないものとする。ただし,請負人が,引渡しの時に,仕事の目的物が契約の趣旨に適合しないことを知り,又は重大な過失によって知らなかったときは,この限りでないものとする。

(注)乙案について,引渡時(引渡しを要しない場合には仕事の終了時)から期間を起算するという考え方がある。

(概要)

 仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の注文者の権利の存続期間について,売買の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の売主の責任(前記第35,6)と同様の規律を設けるものである。
 甲案は,仕事の目的物の瑕疵に関して民法第637条により消滅時効の一般原則とは別に設けられている期間制限(引渡時又は仕事終了時から1年)を廃止し,仕事の目的物が契約に適合しなかった場合の注文者の権利の期間制限を消滅時効の一般原則に委ねることとするものである。
 乙案は,消滅時効の一般原則とは別に,仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の注文者の権利について固有の期間制限を維持した上で,期間制限の内容を,売買の目的物が契約の趣旨に適合しない場合における買主の権利の期間制限に関する前記第35,6の乙案と同様の規律に改めることとするものである。売買と請負は,現実の取引においては類似していることもあり,目的物が契約の趣旨に適合しない場合の取扱いを売買と請負とで異にするのは合理的でないという考え方に基づく。具体的には,まず,民法第637条は,制限期間の起算点を引渡しの時(引渡しを要しないときは仕事が終了した時)としているが,これを民法第564条と同様に事実を知った時と改めることとしている。また,注文者の権利を保存するためにこの期間中にすることが必要な行為についても,売買におけるのと同様に,瑕疵があったことを通知すれば足りるとすることとしている。その上で,請負人が,引渡しの時に,仕事の目的物が契約の趣旨に適合しないことを知り,又は重大な過失によって知らなかったときは,期間制限を適用しないものとしている。この場合には消滅時効の一般原則に委ねることとなる。
 これに対し,基本的に乙案の考え方によりつつ,期間の起算点については,債務の履行が完了したという請負人の信頼を保護するため,民法第637条を維持して引渡時(引渡しを要しない場合には仕事の終了時)とする考え方があり,これを(注)で取り上げている。

赫メモ

 請負人の担保責任の期間制限について、民法637条は、引渡時または仕事の終了時を起算点としており、買主が瑕疵を知った時とする売買の規律(民法566条3項)とは異なる起算点となっているが、売買と請負が実際の取引において類似するものがあること、民法637条と566条3項が同じ趣旨に基づく規定であることからすれば、両者の起算点は同じくすべきであり、民法637条の起算点については、注文者が契約不適合を知らないまま制限期間が徒過してしまい、注文者に酷な場合があることから、要綱仮案では、民法637条の起算点を、民法566条3項と同様に、仕事の目的物が契約の趣旨に適合しないことを注文者が知った時と改めることとしている。
 また、売買の瑕疵担保責任において、買主が損害賠償請求権を保存するには、制限期間内に裁判上の権利行使をするまでの必要はなく、裁判外で売主に対し具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し請求する損害額の根拠を示すべきであるとする判例(最判平成4年10月20日)が存することを踏まえつつ、要綱仮案では、売買に関する要綱仮案第30、7と同様に、1年の制限期間内に、請負人に対して契約不適合があることの通知をすれば足りるものとしている。また、請負人が、引渡時または仕事の終了時に仕事の目的物が契約の趣旨に適合しないことについて悪今てゃあじゅうかしつである時は、請負人を短期の期間制限によって保護する必要がないから、期間制限を適用しないことつぃている。なお、期間制限内の通知によって保存された注文者の権利の存続期間は、債権に関する消滅時効の一般原則によることになる(以上につき部会資料75A、37頁)。
 「知った時」とは、注文者がどのような事実を認識した時点を指すかについても、売買の担保責任に関する規定の解釈が参考になると考えられる(部会資料75A、38頁)。
 「通知」の意義については、商法526条2項の「通知」と同様に解釈するのが合理的であると考えられる(買主の権利の期間制限に関する要綱仮案第30、7のメモ、参照)。

現行法

(請負人の担保責任の存続期間)
第637条 前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
2 仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり