債権法改正 要綱仮案 情報整理

第38 寄託

7 消費寄託

 民法第666条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
(2) 民法第590条及び第592条の規定は、(1)の場合について準用する。
(3) 民法第591条第2項(第32の6参照)の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。

中間試案

11 消費寄託(民法第666条関係)
  民法第666条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には,受寄者は,寄託された物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならないものとする。
 (2) 上記(1)の契約については,消費貸借に関する民法第588条(前記第37,3),第590条(前記第37,5)及び第592条と,寄託に関する前記1,民法第662条(前記8),第663条及び前記9を準用するものとする。

(注)上記(2)のうち,寄託物の返還に関する民法第662条,第663条及び前記9を準用する部分については,現状を維持する(基本的に消費貸借の規定を準用する)という考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,消費寄託において受寄者が負う返還義務の内容を明らかにするものである。
 本文(2)は,消費寄託に消費貸借の規定を準用している民法第666条の規律を以下の2点において改め,その結果として,同条において準用する消費貸借の規定を同法第588条,第590条及び第592条に限ることとするものである。
 第1に,消費寄託の成立に関しては,寄託の規律(前記1)を準用することとしている。消費寄託の利益は寄託者にあるとされるのに対し,消費貸借の利益は借主にあるとされている点で違いがあるため,寄託物の受取前の法律関係については寄託の規定を適用するのが適当であると考えられるからである。第2に,消費寄託の終了に関する規律のうち,受寄者がいつでも返還をすることができる点(民法第666条第1項,第591条第2項)についても,消費寄託の利益は寄託者にあり,返還の時期を定めている場合に受寄者がいつでも寄託物を返還することができるとするのは妥当でないとの指摘がある。そこで,受寄者の寄託物の返還に関する規律については,寄託の規定(同法第662条,第663条)を準用することとしている。これに対して,寄託物の返還に関する規律については,基本的に消費貸借の規律を準用している現状を維持するという考え方があり,これを(注)で取り上げている。

赫メモ

 預かってもらう契約と貸す契約とは、典型契約としての性格上明瞭に異なっており、現行法が消費寄託に消費貸借の規定を準用していることは体系的に見て問題があるとの意見を踏まえ、要綱仮案では、消費寄託について、原則として寄託の規定を適用することとした上で、消費寄託と消費貸借は寄託物及び目的物の処分権が移転する点で共通することから、その限度で消費貸借の規律を準用することとしている(要綱仮案(1)(2))。
 また、預貯金契約については、受寄者が預かった金銭を運用することを前提とする契約類型であり、受寄者にとっても利益がある契約である点で、他の消費寄託契約とは違いがあり、受寄者に一方的に不利なルールである民法663条2項の適用が相当ではないことから、要綱仮案(3)において、寄託物の返還に関する現状の規律を維持する趣旨で、受寄者が寄託物をいつでも返還することができる旨の特則を設けるものである(以上につき部会資料81-3、25頁)。
 なお、中間試案(2)においては消費寄託に準消費貸借に関する民法588条も準用することとしているが、成立における要物性に関する見直しが行なわれた後の寄託の条文(要綱仮案第38、1(1))が適用されるため、要綱仮案では準用対象から除外している(部会資料83-2、50頁)。

現行法

(寄託者による返還請求)
第662条 当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。

(寄託物の返還の時期)
第663条 当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる。
2 返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない。

(消費寄託)
第666条 第五節(消費貸借)の規定は、受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。
2 前項において準用する第五百九十一条第一項の規定にかかわらず、前項の契約に返還の時期を定めなかったときは、寄託者は、いつでも返還を請求することができる。

(準消費貸借)
第588条 消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす。

(貸主の担保責任)
第590条 利息付きの消費貸借において、物に隠れた瑕疵があったときは、貸主は、瑕疵がない物をもってこれに代えなければならない。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
2 無利息の消費貸借においては、借主は、瑕疵がある物の価額を返還することができる。この場合において、貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは、前項の規定を準用する。

(返還の時期)
第591条 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
2 借主は、いつでも返還をすることができる。

(価額の償還)
第592条 借主が貸主から受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることができなくなったときは、その時における物の価額を償還しなければならない。ただし、第四百二条第二項に規定する場合は、この限りでない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり