【懐かしの張川林道行】
 梅雨に入る前の5月中旬から下旬にかけては、本当に旅のベストシーズンだ と思います。まず気候がいい。風は冷たく心地よく、天気も落ち着いています。 さわやかに風を受けるのが心地よい季節です。次は人の問題、ゴールデンウィ ークの喧噪が収まり夏休みまでの間、行楽地や温泉などはいつもの静けさを取 り戻すようです。ましてや、平日に旅する私です。温泉独り占めはあたりまえ! もちろん、料金も格安ですし、フェリーもがら空きです。難点は、みんなが働 いている時期なので、バイクで旅していると「学生さんは良いねぇー!」など と間違われてしまうことぐらいでしょうか。  さて、今回もお気に入りの四国東部の山岳地帯(最近物部川流域ダートトラ イアングルと弟と言っている)を目指します。今回ももちろんBAJA、4分 山のタイヤが少し気にはなりますが、ソロなのでアベレージスピードを押さえ ますからまぁ大丈夫でしょう。  今日は甲子園フェリーを使います。料金的には少し淡路フェリーに比べて割 高になるのですが、月曜日の朝に阪神高速を若宮まで走るほどの度胸を私は持 ち合わせていません。通勤と同じ道をほぼ同じ時間帯にツーリングスタイルの BAJAで走ります。いつもすれ違う車や流れる景色さえ違って見えてきます。 ツーリングへのいざないは、キックを踏みおろしたその瞬間から始まっている のです。淡路島にわたると迷うことなく本四連絡道路をチョイスします。R2 8一般道はとてもだるい道です。これから大自然に抱かれに向かうプロローグ としてふさわしくありません。これは本当に困ったことです。大鳴門橋を渡り 四国へ上陸、県道12号撫養街道を西へ向かいます。吉野川左岸段丘を淡々と 走ります。まもなく四国八十八カ所霊場第一番霊山寺が見えてきます。幾人か の白装束のお遍路さんを横目に見ながらさらに進みます。2番極楽寺、3番金 泉寺、4番大日寺、5番地蔵寺、6番安楽寺、7番十楽寺、8番熊谷寺、9番 法輪寺と街道沿い霊場が続きます。罰当たりの人生を送っていますので、いつ の日か、弘法大師とともに「同行二人」して悟りの道へ進みたいものです。  四国ご自慢の「セルフうどん」を食べ(すごい荷物のXJRライダー氏とと もに)、三加茂町をめざします。ところがなんと雨です。降水確率0%はなん だったのでしょうか。天気予報はやっぱり大石恵じゃなければいけないのでし ょうか。なにはともあれ合羽を着込まなければなりません。しかし、最近雨中 ツーリングの経験が浅はかな私、今回もタイミングを失いレインウェアに身を 固めたときはすでにジャケットはかなりの水を吸ってしまっていました。都会 生活ばかりしているとこういう感性が鈍ってきます。長くツーリングしている と「雨」のタイミングが測れるようになってきますものね。三加茂町着、赤色 のトラス橋を右岸に渡り深渕落合林道を目指します。分岐は三加茂町役場前の 交差点。何年か前に通った記憶がよみがえります。深渕川に沿って高度をどん どん稼いでいきます。いきなり四国の山深さを感じます。深渕の集落(といっ ても何もないが)まではターマックです。そしていよいよダートの始まりです。 今回はソロなので工具一式予備パーツをリアバックに積んでいます。サスペン ションのイニシャルを片目にセットし直して荒れた路面に突入しました。四国 の林道は峰越し林道の場合おおむね北側の斜面が荒れていることが多いようで す。この深渕落合林道もその例に漏れずなかなかハードな道が続きます。対向 車などもちろんありません。作業用車両が通った軌跡もありません。全くのバ イクご用達ロードです。河原並かそれ以上の路面も登場します。以前きたとき もハードな印象はありましたが、これほどまでとは、最初の一本で四国を堪能 している私です。 落合峠は、道のハードさとはうって変わって高原状の広々とした峠です。こ こから南側は舗装されていることもあり、何台かのRVが止まっていました。 こうなると泥だらけの汚い私とBAJAは浮いてしまいます。昔ここを訪れた 時は、晩秋の寒い時期でした。鼻水をすすっている私をみて、BBQをしてい た四駆のグループがシチューや刺身(ここらにある天然のわさびをすって食し た)をごちそうになったことを思い出します。あの頃(といっても10年くら い前)は四駆とオフバイク、仲良かったけれどな。RVという言葉が使われだ したくらいからおかしくなっちゃった。甘えかもしれないけれども、自然の懐 深くにあまりにも簡単にアプローチできるようにすることはどうなのかなと思 います。こっちは泥だらけ、あっちはミニスカートにハイヒールでは山に対し て失礼ではありませんか。(また、愚痴っぽくなってきた・・・) 峠を下り、 次の祖谷山笹谷林道をめざします。  峠を下りきるとR439(与作)にぶつかります。この国道と山を挟んで南 側に走るR195との間の峰越し林道群が四国山岳林道群のハイライトです。 東から祖谷山笹谷林道、楮佐古小檜曽林道、谷相林道、いずれも1,000m 級の峠を越す峰越林道です。距離も充分、なんと言ってもその山深さと切り立 った急峻な山容、そしてがれた路面がこたえられません。今回は前回走り損ね た祖谷山笹谷林道を走ります。R439の分岐からいきなりダートです。林道 現役地帯なのでしばらくの間は締まったトラック道が続きます。しかし、それ もつかの間、まわりの木立が途切れると自分が断崖上を走っていることに気が つきます。ハードな道です。ラインオフの4分山タイヤには少しきつい。矢筈 峠で小休止、ここはアリラン峠の別名があります。強制連行で作った道なので しょうか、日朝間の暗い歴史を感じます。南面は北面に比べて穏やかです。次 の西熊別府林道をめざします。  西熊別府林道、剣山スーパー林道の西尾根に広がる豪快な林道です。大栃側 からアプローチします。「久保」という名前のつく集落を次々と通り過ぎます。 その中には廃校になった学校や使われなくなった集会所などが大事に保存され ながら生きながらえています。こういう郡部を走っているといつも感じるので すが、どんなに山深い集落でも必ず学校はあったようです。それも一番高台の 良い場所に。昔人が子孫の繁栄を夢見て教育に我が子を託した想いが全国津々 浦々に存在していました。学校はそこに通う子供たちにとっても、その親たる 大人たちにとっても「晴れ」の場所であったのでしょう。それが、今や都市部 では核家族化が進み、学校に対する想いが親子で共有できることなどないので しょう。郡部を走ると、日本って国は本当に豊かな国だなぁと思うと同時に、 何か大切な物を失ってしまったなぁ、どこかで大きな舵取りの間違いをしてし まったなぁと思います。今回はソロなのでいろいろなことを考えます。まして、 十年ほど前に一度走った道ですから、昔を懐かしみ少し感傷的になってしまい ます。人は昔を想うとき「浪漫」を感じ、それを現在と比べて「感傷」に浸る のだと想います。「昔は良かった」と言い出した時、その人は充分にセンチメ ンタリストなのだと思います。さて、西熊別府林道です。スーパーの西側尾根 道ですから道の印象はスーパーそっくりです。特に峠前後の景色の移ろいは、 スーパーの剣山トンネルを抜けた時の感激に通じるものがあります。ただ、西 熊側から峠までは舗装が進んでいます。峠から別府峡までのダートは健在です が、通行車両が多いためか固く締まっておりハード派のあなたを満足させるこ とはできないでしょう。R195に下りきり、今日の宿「別府峡温泉」に向か います。「別府峡温泉」得意の村営宿泊施設です。実は今回「ピースフルセレ ネ」に泊まる予定でいたのですが、今朝電話を入れると「ボイラー工事のため ここ三日ほど休業とのこと」やはり閑散期なのだなと実感しました。そこで、 別府峡温泉にしました。当然貸し切り状態です。私の他は老夫婦2組だけ、温 泉独り占め、食堂独り占め(これは少し寂しいが)でした。  翌日も快晴、初夏の緑が目に飛び込んできます。一人っきりの朝風呂を堪能 し、丼飯二杯かきこんでBAJAの準備を整えます。今日は前回来たときに「 ライダーズインものべ」で情報をゲットした「宇筒舞林道」を走ります。そし て、以前よりこのあたりの伝統コースである「張川林道」「東川千本谷林道」 を走る予定です。サァ、キックを踏みおろします。  「宇筒舞林道」物部村大栃の集落から始まります。川面の見える吊り橋を渡 り物部側左岸を走ります。途中「仙頭」という本当に仙人が出てきそうな山深 い集落を抜けていよいよ道はダートへと変わります。則友川に沿った道筋は走 りやすく、そしてなかなか豪快に高度を稼いでいきます。しかし、ここは四国 です。峠直下の北面はそれらしいガレ場の連続です。重いリアの荷物に翻弄さ れながらも峠に到着しました。峠は脆い岩盤でできていました。BAJAの排 気音でばらばらと崩れてくる感じです。そして、この峠はすぐに降りようとは しません。やせ尾根を右に左にと進みます。もちろん脆い壁、あまり走ってい て気持ちの良いところではありません。峠を下り始めます。すると、なんとそ こには民家があるではないですか。標高1,100m余り、こんなところに人 が住んでいるとは、四国は深い・・・。うねるダート道を降りきり中津尾の集 落に出ます。ここからは、県道210号畑山栃の木線を走り「張川林道」を目 指します。「張川林道」ツーリングマップルにあるようにまさにファイブスタ ーの林道です。今もあり続けています。ここを走ったのはかれこれ10年も前 のことでしょうか。当時は林道ツーリングに目覚めだした頃で「ナチュラルツ ーリング」の寺崎氏の文章や太田氏の写真に魅せられてあちこち走り回ってい ました。この張川林道も太田氏の素晴らしい写真がきっかけでした。同じアン グルでA−1を構えましたが遠く及ばず。しかし、その写真は翌年の年賀状に なりました。さて、「張川林道」です。この道とりつきから伊尾木林道との合 流まで全線ダートです。途中に集落等は一切ありません。まさに無人の山々を 駆けめぐる私たちにとっては夢のような道です。どこがファイブスターなのか? まずは、谷筋フラットダートの豪快な走行感。はっきり言って飛ばせます。私 はラインオフタイヤなので慎みますが、ドリフト・カウンターなんでもありで しょう。道幅は広いし見通しは良いし対向車などまずないしGOODです。次 は峠へ向かう豪快なトラバース。フラットなダートを突き当たると谷を巻き込 み峠への登りにかかります。これがまた素晴らしい。伐採の進んだ斜面は明る さいっぱい、開放感全開です。もちろん四国ですからがれた路面で楽しませて くれます。そして峠「宝蔵峠」、下りは一気に下ります。これもいかにも四国 的、とってつけたようなひっかき傷状のルートが山肌にまとわりつきます。ラ イディングに慎重さが求められます。そして、約23.5Kmのパラダイスロー ドは伊尾木林道にダートのままぶつかります。走り(豪快さとラフさ)に満足、 景色(山深く清冽な風景と開放的な山岳風景)に魅惑、そして、これらをミッ クスした変化をダイナミックに味わえるのが「張川林道」の醍醐味でしょう。 寺崎氏も著書「林道日本一周」のなかでこの林道については、星を付けており、 難易度3(5段階中)眺望よしと記入しています。いい林道です。

宇筒舞林道
ごらんのような痩せた尾根道が頂上付近に続きます
しかし、驚くべくはこのようなところにも住みそして暮
らしている人がいるということです。四国は本当に山
深く緑豊かなところです。まだ地図には記載されて
いないけれども、則友川に沿って走ればだいたい
トレースできます。
張川林道
この写真は峠にある「宝蔵峠」の看板です。この南
側写真でいうとBAJAの後ろ側の眺望が素晴らしい。
伐採の進んだ山々と南国の明るい青空。そして、フ
ラットダートからがれた急坂まで本当に楽しめる林道
です。距離も適度にあり私の一押しです。
 全線舗装になってしまった伊尾木林道を北上し、「東川千本谷林道」へ向か います。10年前には確かあった土居集落の雑貨屋は閉まっていまいた。冷た いコークが飲める予定でしたが、あきらめてぬるい金の烏龍茶をすすります。 「東川千本谷林道」もなかなかの道です。しかし、南側は舗装化進行中。今日 も工事をしていました。私たちにとってはダートのまま残しておいてほしいの ですが、四国の交通事情を考えるとこのルートに関しては舗装化もしょうがな いかなと思います。安芸市にダイレクトにアプローチできるわけですから、か なりの時間短縮になることでしょう。駒背峠のトンネルを越して徳島県へ。舗 装工事もここらへんで一段落し、昔通りの荒れたラフが続きます。深い谷、伐 採の進んだ山肌、ウーン四国の風景です。本州とは違い圧倒的な開放感が四国 にはあります。この林道もR195合流までダートです。人の気配もありませ ん。さて、これで、今回のダートは終わりです。すぐ西に剣山スーパーの高の 瀬峡川の入り口がありますが、今回はパスしてR195で徳島に出ることにし ました。途中「ルネッサンスリゾート鳴門」にオフブーツのまま進入してベル ボーイに睨まれたりしながら、無事帰宅しました。  今回のこのコース、アウトライダー7月号「ウェークエンドラン」に一部の っています。師と仰ぐ「鈴木氏」もこのあたりに目を付けておられるようです。 まさに「今が旬」です。物部川流域ダート群、当分はまりそうです。  ◇データ    ・別府峡温泉  08875−8−4181            1泊2食  7,000円程度    ・BAJA   約550Km
 


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