宮古への旅2007 その2(2007.6.23 - 27)
伊良部の海
6月24日(日)晴れ
朝、10時の船に間に合うようD介さんに迎えに来てもらう。愛車「トッポ君」とはじめてご対面。
この車のことは先代の持ち主千兵衛さんが乗ってた頃からちょくちょく話題にはのぼっていたので、なんだか噂のお友達にはじめて紹介されたような感覚(笑)。
これ、千葉の友達も同じタイプに乗ってたから知ってるんだけど、軽自動車のわりには車内にゆとりがある……つまり車高があるわけ。
実際乗ってみて、後日あびかる夫妻の車で平良から狩俣の道を通ってみて、帰ってきてから沖縄本島を直撃した先日の台風4号の実況中継を見て、あれやこれや考えあわせて見ると、2003年9月に宮古を直撃、西平安名崎と七又海岸の風車をへし折り狩俣の電柱を軒並みなぎ倒したあの伝説の台風14号(マエミー)の嵐の中、D介さんが平良から当時住んでた狩股までこの車で帰ったというのがいかに恐怖の体験だったか実感する。いやよく横転しなかったよなこれで……(冷汗)
「スーパーライナーはやて」に乗って伊良部島へ。10分ほどの船旅は、とてもあっけない。
船が入港するのは佐良浜の港。伊良部島のこちら側は、どこも浜からいきなり高台になっている。だから佐良浜の街は、海に面する斜面に階段状に鉄筋コンクリートの立派な家並みが並ぶ、という、まるでエーゲ海のどこかの港町のような情景。いや、本物を見たことはないんですけど(笑)。
ちなみに、沖縄では鉄筋コンクリートの家のことをよく「スラブ家(やー)」と呼ぶ。沖縄というとすぐ頭に浮かぶ赤瓦の家は「瓦家(かーらやー)」だ。実は宮古では、「かーらやー」はあまり見かけることがない。これにはいろいろな要因があるのだが、最大の理由はたぶん台風。
この後あちこちを回って実感していくことになるのだけど、宮古島を通る台風の威力はハンパじゃない。宮古島には風をさえぎってくれる山がないせいかもしれないが、とにかくすさまじい破壊力なのだ。
台風の中には、あまりに被害が大きかったために、気象庁が特別に命名した台風が8個ある。その中のひとつが「伊勢湾台風」。これはわたしたち名古屋人にとっては、東京の人にとっての「関東大震災」、神戸の人にとっての「阪神・淡路大震災」と同じくらいの伝説の大災害。いまだに災害を語る時に必ず対比の基準にされるほどのトンデモナイ台風だった。
そんな「命名台風」の中に第一、第二、第三という3つの「宮古島台風」があるのだ。推して知るべしである。
だから宮古の人は、家を建てる機会と資金があれば、とにかく頑丈な鉄筋コンクリートの「スラブヤー」を建てる。見た目とか雰囲気とかより、とにかく台風に耐えられる家、というのが第一条件、なんじゃないのかなぁ。
それに、もともと赤瓦の家、というのは琉球王国の支配階級の家の特権だったわけだし(後に解禁されたけど)、人頭税で搾取される側だった宮古の人にとっては、歴史的にもあんまり憧れの対象じゃないのかもしれない。
ともかく、佐良浜の家はあっちもこっちも羨ましいほどのオーシャンビューであることは間違いない。
とりあえず、反時計回りに島を回ることにして、最初に行ったのは「サバオキ公園」。サバオキ公園も崖の上に東屋があって、崖下に「サバオキ井戸」がある。
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サバオキ公園の東屋 |
周囲はこんな感じ |
崖をおりていくとこんな海がある |
次に向かったのが「フナウサギバナタ」。「フナ(船)+ウサギ(拝み)+バナタ(端)」という意味で、ここから船を見送った場所、ということらしい。鮒とも兎とも関係ない(笑)。ここにはサシバという鳥をかたどった展望台があるが、翼の根元にあやしげなひびが……
「これ、そのうち台風が来たら折れて飛ばされっぞー」とD介さん。
(実は台風の時に一回折れたことがあるみたい)
「台風の時は近寄らないようにしないとね」
「寄れないって」とD介さんのツッコミ(笑)。
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フナウサギバナタからの眺め |
サシバの展望台 |
サシバの雄姿 |
そこから西海岸を回って白鳥岬へ。このあたり、沖縄本島の万座毛とか波照間島の高那海岸に似た雰囲気が漂う。
白鳥岬の沖合いには、ダイビングのボートが何隻も集まっていた。どうやらこのあたりは非常によいスポットらしい。それにしても、これだけたくさん集まってたら、さぞかし海の中はにぎやかなことになってるんだろうなぁ……
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白鳥岬からの眺め |
移動売店 |
店番はネーネーとわんこ一匹。 |
いったん今夜のお宿ゲストハウス「びらふやー」に寄って休憩。
本日の泊り客はわたしともうひとり。それぞれ個室を使うのでドミトリーの宿泊客はなし。
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サトウキビ畑の中の「びらふやー」看板 |
「びらふやー」の建物 |
「びらふやー」に荷物を置かせてもらって昼食に出発、渡口の浜食堂へ。ここは海が見える屋根つきの外庭があって、そこで飲食ができる。クーラーなどないけど、基本的にどんなにカンカン日が照っている昼間でも、日陰に入ればそこそこ涼しいので苦にならない。
D介さんは「そば大」、わたしは「そば小」とてんぷらでお昼ごはん。てんぷらは200円で皿いっぱい出てきたので、ひとりでは食べきれずD介さんに手伝ってもらった(笑)。
昼食後、浜に出てみた。今日は風があるので(だから日陰は涼しいのだが)、渡口の浜もけっこう波が立っていた。そのせいか水もちょっと濁り気味。でも沖合いはきれいなブルー。
伊良部島のすぐ左下には下地島がくっついている。あまりくっつきあっているので、間の海は川にしか見えない。この写真の右側が伊良部島、左側は下地島。
奥に見えるのは、伊良部島と下地島の間にかかるいくつかの橋のうち最南端の「乗瀬橋(ぬーしばし)」。その奥に見えるのが最初のお宿候補だった「ホテルサウスアイランド」。
再び車に乗って下地島に渡り、「帯岩」を見てから「通り池」へ。
駐車場から林を抜け、岩場に作られた遊歩道を歩いていくと、藍色の水をたたえた「通り池」がある。ぱっと見連想したのはユカタン半島の「セノーテ」だった。あれも石灰岩台地に陥没してできた穴に水が溜まったものだから、構造としてはよく似ている。
海側の池のそばに物干し台のような休憩所が……と思ったら、実はこれ、サバオキ公園や白鳥岬にあったのと同じような東屋だったのだが、台風で屋根が吹っ飛んだのだとか。
(佐野さんの旅行記に同じようなアングルから撮られた写真があるので見比べて下さい)
そう言われてみれば、四隅の柱が途中で折れてコンクリートで補修してある……ひえぇ。
通り池の先には「鍋底」というもうひとつの池があるというのでそちらに向かって歩き出したのだが……途中で遊歩道が消失。「この先立ち入り禁止」のロープが張ってある。周辺には台風で飛ばされた残骸とおぼしき木片が散らばっている。遊歩道を降りて行けなくもないけど、かなりサバイバルな道行になりそうなので断念。
そこから下地島空港の滑走路端へ……だけど、午前中あんなにぶんぶん飛んでた飛行機が、いっこうに姿を見せない。どうやら今日の飛行訓練は午前中だけだったみたいだ。でも海の青さはものすごい。宮古島に着いて海の美しさに感嘆していたら、伊良部島に来てさらに美しいのでびっくり。ところが下地島の海はもっと美しかった……
伊良部島と比べると下地島は人家が少ない。特に島の西側半分は「下地島空港」なので、たぶんそれもあって水がきれいなんだろうなぁ。
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下地の海 |
D介さんの愛車トッポ君 |
伊良部島に戻り、佐和田の浜を見る。遠浅の浜に岩がごろごろ転がってる姿は確かに不思議な眺め。下地島にあった「帯岩」も、この佐和田の浜に転がっている岩も、明和の大津波の時に打ち上げられたものだという。
島唯一のコンビニに寄ってお茶を買って、牧山展望台へ。ここが宮古島に一番近い展望台で、向こう側には平良の街並みがひろがる。
ああ……これぞまさしく「伊良部トーガニ」の世界。
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牧山展望台からの眺め |
右端に伊良部大橋の基点が見える |
「伊良部トーガニ」は安里勇さんのライブで聴いて以来、いつかはマスターして唄ってみたい、と思っている歌。
平良に住む男が伊良部に住む女のもとに、サバニに乗って通うその情景を、男の側と女の側から歌う熱〜いラブソングだ。女は潮流やサンゴ礁のある海を越えて通ってくる男に向かって、流れのゆるい場所、安全な場所をたどってきてくださいね、波がしずまるようにと祈ってお待ちしますからと呼びかけ、男は女に向かって、海の凪ぐ夕暮れに忍んで行くから、音が立たないよう板戸を閉めず、むしろを下げて待っていておくれと呼びかける……う、うらやましいぞぉ〜。
もともと沖縄生まれじゃないわたし、「ナイチャーにはウチナーのウタグクルはわからんさぁ」という声に対抗するには、できる限り歌の生まれた場所に立って、その歌を取り巻く情景を吸収するしか方法がない。で、今までにも、鳩間中森に立ってみたり、小浜島の大岳(うふだき)に登ったりしてきた。
「伊良部トーガニ」をもっとよく理解するには、やはり一度は伊良部島に立ってみないとなぁ、と思ったのも、今回の旅の動機のひとつではある。
で、今回は念願の「ゆかりの地で生三線」を決行。
今までは、その場所に立ってもそこで歌うというのはやったことがない。鳩間中森では小声で「鳩間節」口ずさんでみたりはしたけれど……
D介さんの愛車トッポ君の後ろに積んできた三線を引っ張りだし、ニ揚げにチンダミして深呼吸。
サーヨーイ 伊良部(いらう)とがマーン 間(ばし)がまんなヨー
ぱなりゆとが間がまんなヨーイー
渡(ばた)す゜瀬(じぃ)ぬマーン 休(ゆく)す゜ゆ瀬ぬ あてやなむぬヨー
サーヨーイ 渡い瀬やマーン 舟小(ふにがま)だりゃヨー
休す゜ゆ瀬や水巣小(みすがま)だりゃヨーイー
舟たどりマーン 水巣やたどり 通(かゆ)い参(んみゃー)ちヨー
はぁ〜緊張した。けど気持ちよかった(笑)。
それにしてもねぇ……平良と伊良部の間の海って、けっこう距離あるじゃない。確かに高速船だとものの10分で着いてしまうが、ここを手漕ぎの舟で渡るとなると……
いや、以前エコツアーでちょっとばかりシーカヤック漕いだことがあるんで、その大変さは身にしみてよーくわかってる。たぶん男は一日の仕事が終わってから夕凪の頃を見計らって伊良部まで渡り、彼女のもとで一夜を過ごしてまた朝方の凪の頃に平良まで漕ぎ戻るんだろうから……
恐るべし宮古男のスタミナ(笑)。
「びらふやー」まで送り届けてもらい、また船に乗って宮古に帰るD介さんを見送って、部屋に入る。せっかく来たんだから海水浴でも、と佐和田の浜に……でも、遠浅の海なので、海水が「湯」になってる。とても泳いでさわやか気分、とはならなそうなので、足だけじゃばじゃばしただけで宿に帰る。
戻ってきたら、宿のオーナー雷太さんと、近くのゲストハウス「イラブラブ」から遊びに来ていた女性ふたり(ひとりはヘルパー、ひとりは泊り客とのこと)とがおしゃべりしていたので仲間に加わり、屋上で夕日を見たり、雷太さん手作りのたこ焼きをつまみにビール飲んだりしてまったり過ごす。途中雨が降ってきたりして出かけるのも面倒になったので、今日の晩ご飯はたこ焼き&ビールで終了(笑)。
びらふやー屋上からの眺め