ラスト・ソルジャー [DVD] ラスト・ソルジャー (製作年度: 2010年)
レビュー日:2010.11.17
更新日:2012.1.2
評価:★★★★
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解説(Yahoo映画より):
ジャッキー・チェンが構想に20年を費やし、原案、主演、製作、武術指導を務めたアクションムービー。戦国時代の中国を舞台に、ジャッキー演じる歩兵が敵国の将軍を捕虜として連れ帰る道中、数々の困難に遭遇しながら互いに心を通わせていく姿を描く。共演は、歌手としても活躍する『ラスト、コーション』のワン・リーホン。スタントなしのアクションはもちろん、笑いと男同士の友情を盛り込んだ内容に、ワクワクすること請け合いだ。


上等さぁ。

ジャッキーが終始小汚いおっちゃん状態です。
そしてとことん戦いません。ただひたすら逃げる。
まぁ時々ちょっとばかり鋭いまなざしとか常人とは思えない身のこなしとか出ちゃいますが(笑)、今回のジャッキーは望んでもいない戦いにかり出されちゃったフツーの農民ですから、とにかく生きて帰ることが最優先課題。どんな姑息な手を使ってでも生き延びてやる、という執念は、いく度もの戦乱をくぐり抜け、あまたの王朝の興亡を生き延びてきた中国民衆のバイタリティの原点を見るような気も。

そういえばこの作品、沖縄国際映画祭に参加したんですよね。沖縄の「命どぅ宝」という言葉を連想しました。劇中でジャッキーがしょっちゅう口にするセリフ「挺好的(ティンハオダ)」が字幕では「上等だ」とされてたんですが、これもウチナーグチの「上等さぁ」を思い出して笑えました。

簡単な中国語(「有人吗(誰かいますかぁ)」とか「对不起(ごめんなさい)」とか)が聞き取れる楽しみと、ジャッキーの歌声に聞きほれる楽しみがあって極私的にはなかなか楽しかったです。そういえば今年公開された3本の映画どれにもジャッキーの歌うシーンがあったけれど、この映画が一番気持ちよさそうに歌ってるかも。ホントいい声してるなぁ。

ただラストは……そこまでさんざん夢オチ使っておきながら、アレだけは夢オチじゃないってのが……(涙)。
ジャッキー恒例のNG集でなんだか救われたような気分になるなんて初めてだ。

今年(2010年)見た3本の中でどれがいちばん好きかと聞かれたら……やっぱり「ダブル・ミッション」ということになるのかも。あれが一番肩の力抜いて見られて、ほっこりした気分になれました。

それとこの中には、ジャッキーが広東語しゃべってる映画が一本もないんです。わたし的には広東語よりは普通話(北京語)のほうがまだわかる単語多いので助かるけれど、なんかちょっと寂しいなぁ。

【ここが美味しい名シーン】

この映画の設定では古代中国の名もなき農民で(実際最後まで名前はわからない)、武芸の訓練なんて受けたこともないんだからいつものようなカッコイイアクションを期待するのは無理。とはいえ、そんな設定のジャッキーのアクションをいかに見せるかが演出のしどころで、敵国の将軍のワン・リーホンと対等にわたりあうシーンを、ちょっとした設定のズル(笑)で一回は見せてくれます。
あとはひたすら逃げの技術……ですが彼にも一つだけ特技が。それは「石つぶて」。これが百発百中なんですねぇ。このへんいかにも「農民の武器」って感じで、なおかつコントロールの精度が地味だけどスゴイ。

お上の勝手な理屈で戦うなんて真っ平ゴメン、という農民兵ジャッキーが、そもそもの戦いの原因が敵国の王子ふたりの確執だったと知ったときに「兄弟喧嘩のせいで俺達が戦わされたのか」と怒る場面は、なんとなく「WHO AM I?」で自分達の工作活動が上司の私利私欲からくるものだったこと、その口封じのために仲間を殺されたことを知ったジャッキーが怒りをぶつける場面を彷彿とさせるものがありました。

そんな農民兵が最後に、そこまで保身を図ってきた賢明な判断を忘れ、たったひとりで秦国の兵たちに立ち向かってしまった動機はただひとつ、自分の国「梁」がなくなってしまった、と知ったショックからでした。国民感情に「そこが自分の土地である」というアイデンティティがいかに根深いものか、そこを刺激すれば本来戦いを好まない一般大衆をいかに簡単に戦争に駆り出せるかを示すシーンだったように思います。


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