第五回
   
柳井 美加奈
特別出演
青木 鈴慕
助演
平野 裕子
2003年12月5日(金)午後7:30時開演
abc会館ホール

 私が柳井美加奈さんと出会ったのは2002年の春のこと、そしてその年の
7月にはロシアの二大文化都市であるモスクワとサンクト・ベテルスブルグ
で演奏会を催すこととなりました。
 最初のコンサートは、モスクワの友好会館でしたがあ、演奏の間ずっと、
私は柳井さんとアンサンブルの奏でる美しい日本の筝の音楽を聴いていま
した。私のみならず、250名以上のロシアの聴衆は、その美しい響きと日
本の伝統音楽、そして柳井さんの芸術的な技量に深く感動しました。
 2003年9月、柳井さんは再びロシアを訪れ、サンクト・ベテルスブルグで
新たな演奏会を行いました。そして、それはロシアの”北の首都”の300
周年記念を祝う市民への美しい贈り物となりました。
 今では、柳井さんは私の国で多くの友人と熱烈なファンを得たことと思
います。
 私は、このように美しい演奏を通じての文化交流が、日本とロシアの人
々が互いに理解を深め合うこととなり、両国の絆がより一層強くなってい
くものと確信しています。
 柳井さんのご多幸とますますのご活躍を心より願って止みません。
ロシア国際文化科学協力センター在日代表部
部長 L.A.ガムザ
(在日ロシア連邦大使館 一等書記官)
曲 目
みだれ 筝本手 柳井 美加奈
筝本手 平野 裕子
末の契 三絃 柳井 美加奈
尺八 青木 鈴慕
秋風の曲 柳井 美加奈
尺八 青木 鈴慕

解 説
みだれ 作曲  八橋検校(〜1685)
 「六段の調べ」と並ぶ、数少ない代表的純器楽曲である。十段の調べとも言われるが、
他の段物のように、各段の拍数は一定せず、それ故、「みだれ」と称される。さらに、旋
律の微妙な展開や流れ、緩急の間合い等も、その名を感じさせるものがある。
柳井は、この曲を、バッハのバイオリン無伴奏ソナタ、シャコンヌに相応すると考えてい
る。師匠小橋幹子師の「みだれ」の演奏に感銘を受け、あらゆる機会毎に様々な「みだ
れ」に挑戦し続けて来たが今回は、替えてとし、江戸の野田検校によるものと言われ
る「雲井みだれ」との合奏である。
末の契 作曲  三絃 松浦検校(〜1822)
     尺八 鶴の巣籠 入り
   白波の、かかる憂き身と知らでやは、わかにみるめを恋すてふ、渚に迷ふ海女小舟(合)
浮きつ沈みつ寄る辺さへ(合)荒磯伝ふ芦田鶴の、鳴きてぞともに(合、手事)手束弓。春
を心の花とみて、忘れ給ふな、かくしつつ、八千代ふるとも君まして心の末の契り違ふな。

地歌、手事物である。前歌、ツナギ、マクラ、手事、後歌となっている。
歌の大意は、ままならぬ恋を荒波に漂う小舟にたとえ、苦しみに耐えて後の契りを約束
しようというものである。
旋律は品位があり、渋みを含んでいる。「浮きつ沈みつ寄る辺さへ」までの深い静かな
味わいと、それに続く、豊かな高まりとを感ずる事ができる。
 鈴慕記・・・大正末期、名人・荒木古童師が「末の契」前歌のあとに琴古竜本曲「鶴の
巣籠」の一部を挿入して演奏されたことがあったと、父・初代鈴慕に聞いてありました。
本日はその形で聞いていただきます。
秋風の曲 作曲 筝  光崎検校(〜1853)
作歌     時田雁門(高向山人/生没不詳)
一歌  もとむれど 得がたきは 色になんありける
         さりとては 楊家のこそ 妙なるものぞかし
ニ歌  雲のびんずら 花の顔 げに海棠の眠りや
         大君の 離れもやらで 眺めあかしぬ
三歌  翠の華の 行きつ戻りつ如何にせむ
         今日九重に 引き換えて 旅寝の空の秋風
四歌  霓裳羽衣の仙楽も 馬嵬の夕べに
         蹄の塵を吹く 風の音のみ残る悲しさ
五歌  西の宮 南の園は 秋草の露繁く
         おつる木の葉のきざはしに 積もれども たれか掃はむ
六歌  鴛鴦の瓦は 霜の花にほふらし
         翡翠の衾独り着て などか夢を結ばむ

筝曲復興の精神に基づき、古い形式の中にも新鮮な息吹を吹き込んだ近代的な作品であ
る。前奏の部分は、段物の形式をふみ、六段からなっている。歌詞は白楽天の長恨歌を
元に作られたもので組歌の形式で作曲されている。全体に秋風調子と呼ばれる独特の調
絃法が使われ、八橋検校の筝曲創世当初の組歌に残る品格の高さをよみがえらせ、洗練
された手法と感性とが織りあって、傑出した作品となっている。
この曲も、柳井の最も愛する曲の一つである。古曲から、現代曲までを演奏し、また、
自らも曲作りを続けつつ、新境地にかけた光崎検校のこの曲にいかなる思いを載せるで
あろうか。
                             (解説  守山 偕子)

Profile
柳井 美加奈
Profile(芸歴) ← クリック
青木 鈴慕
1951年 東京新聞社主催全国邦楽コンクールに「鹿の遠音」の独奏により第一位優勝。
1970年 74年、77年、79年、81年、文化庁芸術祭に大賞、優秀賞、五回の個人受賞。
1990年 日本芸術院賞受賞。モービル音楽賞受賞。
1998年 CD「竹一管」により文化庁芸術作品賞受賞。
1999年 松尾芸能賞優秀賞受賞。重要無形文化財保持者、人間国宝に認定。
2002年 紫綬褒賞受賞。
現在 重要無形文化財保持者、人間国宝 (社)日本三曲協会副会長 琴古流協会会長
平野 裕子
生田流筝曲を古屋富蔵、古屋靖技各師に師事。
1989年 東京芸術大学音楽学部邦楽科卒業。
在学中、宮城賞受賞。
1992年 同大学修士課程修了。
1992年〜
95年 高崎短期音楽大学非常勤講師。
1993年 国際交流基金助成トルコ、ハンガリー公演に参加。
現在 森の会会員、日本三曲協会会員、生田流鳳友会師範。
楽器調整  鶴屋三絃店
        おことの店 矢野