第十回
   
柳井 美加奈
特別出演
青木 鈴慕
賛助出演
富山 清琴
2008年10月15日(水)午後7:30時開演
紀尾井小ホール

御挨拶
 本日は御多用の中「二人会」にお運び頂き、誠にありがとうがざいます。
十年前に芦垣美穂先生と十年続けようと始めた「二人会」が今年で十年を迎えま
した。四回から青木鈴慕先生に御賛助頂き、古典というものの真の深さ、真の難しさ
真の素晴らしさを少しづつ学ばせて頂いた気が致します。
今年で終わろうと思っておりました「二人会」ですが、あまりにも学ぶことが多く、どう
しても続けたいと思うようになりました。青木鈴慕先生にご相談致しましたところ
快く御賛同して頂き、続けさせて頂く決心を致しました。十一回十二回と、ますます
精進してまいる所存でございます。
 今後とも御支援、ご鞭撻を賜りたく心よりお願い申し上げます。
柳井 美加奈
曲 目
1. 秋風の曲 柳井 美加奈
2. 菊の露 三絃 柳井 美加奈
3. 八重衣 柳井 美加奈
三絃 富山 清琴
尺八 青木 鈴慕

解 説
1.秋風の曲 作曲 光崎 検校  作詩 蒔田雲所
一歌  求むれど 得がたきは 色になんありける さりとては 楊家のこそ 妙なるものぞかし
ニ歌  雲のびんずら 花の顔 げに海棠の眠りや 大君の はなれもやらで 眺めあかしぬ
三歌  翠の華の 行きつ戻りつ如何にせむ 今日九重に 引き換えて 旅寝の空の秋風
四歌  霓裳羽衣の仙楽も 馬嵬の夕べに 蹄の塵を吹く 風の音のみ残る悲しさ
五歌  西の宮 南の園は 秋草の露繁く おつる木の葉のきざはしに 積もれども たれか掃はむ
六歌  鴛鴦の瓦は 霜の花にほふらし 翡翠の衾独り着て などか夢を結ばむ

筝曲復興の精神に基づき、古い形式の中に新鮮な息吹きを吹き込んだ近代的な作品である。
前奏の部分は、段物の形式をふみ、六段からなっている。歌詞は唐の玄宗皇帝と楊貴妃を歌
った白楽天の「長恨歌」の詩句から取り上げた六歌よりなり、組歌の形式で作曲されている。
全体に秋風調子と呼ばれる独特の調絃法が使われている。光崎検校の傑作と言われるが、
この曲のために不遇のうちに一生を終わったという。
2.菊の露 作曲 廣崎 勾当  作詩 ふくしん
鳥の聲 鐘の音さえ身に沁みて 思い出すほど 涙が先へ 落ちて流るる妹背の川を
と渡る舟の楫だに絶へて かひもなき世と恨みて過ぐる
思はじな 逢ふは別れと云へども愚痴に 庭の小菊のその名にめでて
昼は眺めて暮らしもせうが 夜々ごとにおく露の 露の命のつれなやにくや
今はこの身に秋の風

地歌端唄物、地歌舞の曲として有名であるが、義太夫節「壷坂霊験記」や歌舞伎の下座唄に用
いらている。歌詞は秋の情緒に寄せて、悲恋の辛さを表したもので、複雑な節回しながら
言葉は率直に語るように歌われている。
3.八重衣 作曲 石川 勾当  作詩 八重崎 検校
君がため 春の野にいで若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ
春過ぎて 夏来にけらし白妙の 衣ほすてふ天の香具山
みよしのの 山の秋風さ夜ふけて ふるさと寒く衣うつなり
秋の田の かりほの庵のとまあらみ わが衣手は露にぬれつつ
きりぎりす 鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしき独りかも寝ん

衣を歌い込んだ百人一首の歌五首を春夏秋冬の順に配し、歌詞として地歌手事物である。
「八重衣」は曲中で頻繁に現れる転調にも三絃の調絃を変えることのない難曲で、作曲者の
石川勾当本人も弾きこなすことができずに廃曲となりかけたが、それを惜しんで宮原検校が
八重崎検校に筝の手付けを依頼し、以後広く演奏されるようになったという。最初の手事
では砧を後の手事では虫の音を描写し、掛け合いのフレーズも印象的に用いている。百七
拍子の間休みなく細かい手が続けられる「百拍子」よ呼ばれる後チラシなど、器楽部分にも
複雑な構成と技巧を凝らした風格のある大曲である。

                                               (守山 偕子)

Profile
柳井 美加奈
Profile(芸歴)← クリック
青木 鈴慕
1951年 東京新聞社主催全国邦楽コンクールに「鹿の遠音」の独奏により第一位優勝。
1970年 74年、77年、79年、81年、文化庁芸術祭に大賞、優秀賞、五回の個人受賞。
1980年 よりイタリア(ローマ)・アメリカ合衆国(ニューヨーク他各地)・中国(北京・
上海・杭州等)・韓国(ソウル・全州)にて海外演奏を行う。
1990年 日本芸術院賞受賞。モービル音楽賞受賞。
1998年 CD「竹一管」により文化庁芸術作品賞受賞。
1999年 松尾芸能賞優秀賞受賞。重要無形文化財保持者、人間国宝に認定。
2002年 紫綬褒賞受賞。
現在 重要無形文化財保持者人間国宝、日本三曲協会副会長、尺八琴古流協会会長
富山 清琴
1950年 初代富山清琴の長男として東京に生まれる。
1973年 東京芸術大学音楽学部邦楽科卒業
1975年 東京芸術大学講師を務める。
1981年 国際交流基金派遣使節として西欧4カ国を巡演。第1回リサイタルを開催
1983年 ヨーロッパ日本芸術祭公演使節として西欧6カ国を巡演、お茶の水女子大学
講師を務め現在に至る。
1986年 フィンランド、クフモ国際室内フェスティバルに出演
文化庁芸術作品賞受賞(89年、91年にも同賞受賞)
1992年 国際交流基金派遣三曲使節として西欧4カ国を巡演
1994年 同使節として北欧4カ国を巡演
2000年 富山清琴を襲名、家元を継承
2003年 エジンバラ国際フェスティバルに招かれ演奏
2004年 ミカナ・アンサンブルとして海外公演に参加。
現在 パリ市立劇場に招かれ演奏、日本芸術院賞受賞
楽器調整  鶴屋三絃店
        おことの店 矢野