コマクサ

八ヶ岳顛末記

3.恐怖の硫黄岳越え   〜夏沢峠・硫黄岳〜

 


根石山荘まできました。2時45分。さっき遠くにかすんで見えていたところ。
ここはコマクサの群生地で、ちょうど花盛りでした。きれい! 周りには低木が生えて土もあるのですが、わざわざこんな石だらけのところを 選んで、コロニーを作るようにして生えています。面白いですねえ。

コマクサ 3時近いんで焦るべきだったのですが、油断。ついゆっくり花鑑賞してから夏沢峠へ。 ここからは下るだけだから、と言われてたのに、スタートしてすぐにちょっと登りがあってあれあれ? と思ったら、何やら頂上を示す看板が...。あとで地図を見たら「箕冠山2600m」となっています。根石岳山頂が2603m ですから、立派なピークですが、この山の名前の読み方がわからない。(北海道ならさしずめミノカップとかいうところだけどね。)

硫黄岳 道々、硫黄岳がおそろしげな姿を見せていましたが、これに登るという実感が 湧きません。疲れてきたものの、まあゆっくり行けば何とかなるだろう、 くらいに考えてました。写真では暗そうに見えますが、まだ青空が見え隠れしてたのです。 気分も軽い。

夏沢峠・山彦荘 夏沢峠、3時30分。左右に下山路があり八ヶ岳を北と南に分断しています。 ここに着いたらその後のコースを検討しよう、と話したのはそういうことなのですが。 なに、もうここまで来ると行く気まんまん。下るの'く'の字も出やしません。 ご覧の通り、いい天気だし。こりゃあ夕焼けがきれいかもしれないよ。なんて、 楽しそうに話してる夫を横目に、夕焼けってことは日が暮れるってことじゃあ、 とひとりごちる妻。その予感が...。

いよいよ硫黄岳にとりかかります。雲行きが怪しくなってきました。時折見える 青空を励みに必死で登りますが、明らかに山肌をもくもくとガスが昇ってきます。 気は焦るのですが、足下は岩とザクザクした石の連なり。天狗の登りのように手を使うわけにもいかず、 ジグザグに上っていくその足がリズムよく動いてくれない。 足早に5歩も上ると、止まってゼーゼーゼーゼーと10呼吸くらい。 ゆっくり連続的に歩けば良いのでしょうが、そうすると片足で身体を支えている時間が長くなる、 もはやそれに耐えられない。これはやばいぞっと内心、大冷や汗。 実際、気温も下がって来たようです。ますますまずい。

しょうがなく休憩。重い荷物を選んで夫のリュックに詰め替えて再出発。 と、どこからか鈍いドロドロという音が。「今の音、雷だった?」信じたくない様子の夫。 まずい、これからは休めないよ。とにかく稜線に出れば楽だから!
ケルン(円錐形の石積み)が見えてきました。ここは霧に巻かれやすいのでこれを目標にするんだ、と夫。 実際、視界がガスっぽくなってきています。やばいのは分かってるんだけど、 心臓が火事の時の半鐘のように鳴り響き、いくらゼーゼーやっても息が整わない。

夫ついに「リュックかして!」。身体の前後にリュックをしょって果敢に進んでいきます。 ところが荷物が無くなってもペースが上がらないミミズ...相変わら3歩進んでゼーゼー、 5歩上ってゼーゼー。腕が重くて力が入らず前にダラリ。ちょっとみぞおちのあたりが 気持ち悪い...。夫の心配そうな顔。ああ、こんなところでわたしが倒れたら、彼はどうするんだろう? ヘリコプター呼ぶのかな?

今にして思えば、あれは酸欠だったと思います。疲れて2700mの標高に身体が順応できなかったのと、 たぶん、休憩の度にちょこちょこと色々食べてたので、胃に血がまわっちゃったのかも。

しかし頂上のない山はない! 道がようやく平坦になってどうやら頂上まで来たようです。 谷の底から、ドロドロと雷の音が遠く聞こえてきます。山頂にたった感慨が湧くどころではなく、 足早に稜線を行きます。途中、夫が標識をじっと見てから右の横道に入りました。 「ここで気づかずに真っ直ぐ行っちゃう人がいるんだよ。」少しだけ、夫の表情に余裕が出てきたようです。 ミミズも自分で荷物を担ぐ元気が出てきました。

プロローグ

2.八方台からのぼる   4.快適な赤岳鉱泉へ

製作者=水のなおみ
E-Mail Address=mimizu@mui.biglobe.ne.jp
All Right Reserved by Naomi Mizuno.
みみずの体操 TopPage