くるくる、くるくる、氷でできた白い花は降り続ける。
人と鳥とを分かつ、厳かな静けさに満ちたこの大地に。
ふと立ち止まって、雪の粒子が降りてくる空を、見上げてみる。
でも、無数の花のかたちが舞い降りる灰色の空には、あの白い鳥の翼は見つからない。
(確かに似ているけど、黄色い花の軸がないよ。)
少し微笑んで、見えない鳥へと心の中で呼びかけてから、再び僕は歩を進める。
後になって、あの鳥達の定めのことを、他の『旅人』から聞いた。
冬至の夜は、一年で最も永い夜。その静かで永い夜のさなかに、新しい春が生まれる。
春は少しずつ成長して、その度に夜は短くなってゆく。
そうして、大きくなった春は、やがて世界に満ちあふれる。
その春を迎えるために、あの白い鳥は冬至の夜に飛び立って、ひとりで旅をするのだと。
そんなことを思い出しながら岩山を越えた、その時だった。
不意に目の前に静かに広がった、乳白色の『海』の光景に、僕は思わず立ち止まった。
視界の低みに、淡い白色の液体のように漂う、一面の霧。
その霧に溶けるように、真白い雪の結晶が舞い降りる。
くるくる、くるくる、小さな花のように。
白い花が舞う、人と鳥を隔てる『海』のはるか遠くに。
ぽん、ぽんと、橙色の灯りが、ぼんやりと微かに燈っていた。
ちいさく、円く、あの花の黄色い軸のように。
「……なるほど。」
冬至の夜に、遠く人の領域に燈る、集落の灯り。
きっと、そのひとつひとつの灯りの下で、人々はささやかに祝っていることだろう。
平穏な一年の終わりへの感謝と、やがて来る穏やかな春を祈って。
鳥が届けた真白い雪の花。懐かしい、人の領域の黄色い灯り。
鳥と人を隔てる乳白色の霧の中で、ひとつになった白い花は、何処か僕の胸を温める。
まるで、あの白い花で淹れたお茶のように。
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