僕が、僕達ふたりではじめて空を飛んだ日も、やっぱり君は悪戯っぽい瞳をしてた。 −−ねえ、一緒に空、飛びにいかない? いつものように、独りでいた僕のもとに遊びに来た君は、微笑みながら言った。 −−僕は、空は飛べないから。 まるで散歩にでも誘うようにそんなことを言う君に、僕はちょっと面食らって呟く。 −−うん、だからあたしが、キミを抱えて飛んであげる! 弾んだ声でそう宣言すると、君は軽やかに地を蹴ってふわりと浮かんだ。 そうして頭の上くらいの高さで器用にくるりと向きを変えると、僕の背後に回り込ん で、浮いたまま僕の両腕をきゅっと掴む。 −−え? わ、わ、ちょっと待ってよ! そんなの無茶だよ! −−大丈夫よ、こう見えてもあたし、随分飛べるようになったんだから! 慌てる僕を宙から羽交い締めにして、まだ小さな淡い紅色の翼を懸命に羽ばたく君。 ふたり分の重量に、まるで風に揺れる柳の枝のようによろめきつつも、僕達は少しず つ大地から離れて、還るべき空へと上昇してゆく。 −−どうよ! すごいでしょう? 君は僕を抱えた腕に必死で力を込めながら、ちょっと勝ち誇ったように言う。 何だか、まるで自分だけの宝物を見せているように。 とは言っても、所詮は子供の翼だから『宿り樹』を覆う樹々の梢を抜けるのが精一杯。 それでも、翠色の梢の天井を抜けると、まるで赤子が初めてその瞳を開いた瞬間のよ うに、僕を取り巻く世界は一変した。 身体に触れるものは、冷たい、微かな風だけ。 大地からは随分離れたはずなのに、それでも頭上には凪いだ水面が幾重にも無数に重 なったように、果てなく空は続いている。 四方の遥かにも、何処までも空は広がっていて、空気の揺らめきにその青を溶かして、 世界を彩っていた。 空気の流れ以外に何物にも制約を受けない、自由で孤独な、青。 その青の中にただひとり孤独に飛ぶからこそ、鳥は空で生きてゆけるという、けど。 背中に感じる君のぬくもりに護られて、はじめて、胸の内に染み入る寂しさとともに 想った。 もしも僕の翼が動くならば、この何処までも続く空を旅して、世界に息づく色彩を、 この目で見たかったと。 −−きゃっ! 悲鳴とともに、突然木の根に躓いたように身体が傾いで、僕の想いは否応なく絶ち切られた。 無理して抱えていた君の細い腕が、僕を大地へと引き戻す力に抗えなくなって一瞬緩 んだその刹那、僕の身体は護られた紅い翼から滑り落ちていった。 とっさに、背に畳まれたままの翼に力を込めるけど、拡がりさえもしない。 君もバランスを崩して墜ちながら、必死になって僕の方に手を差し伸べる。 重力の腕に捕まって大地へと墜ちる寸前の所で、もがくように君の手を握った、瞬間。 無意識のうちに、僕は翼を拡げていた。 微かな蒼を帯びた灰色の翼は、まるでずっと昔から飛ぶことを知っていたかのように、 強く、羽ばたく。 −−キミ、飛べるんじゃない!! 目をまるくして、嬉しそうに瞳を輝かせて君が叫ぶ。 ふたりで手を繋いだまま、梢の天蓋までゆっくり降りてきて、そこで歓声を上げて君 が手を離して無邪気に拍手した。 繋いだ手を離した、その直後。 あたかも時が止まったかのように、僕の翼は造り物のように固まり、力を失った。 −−え、えっと……。あたしの、せい? 最後の最後で地面へと墜ちてすり傷だらけになって樹の枝に受けとめられた僕を、君 は茫然として、梢の上から見ていた。 * |
LOIREのイツキリョウさんから、1000HitのGet記念に頂きました。 しかも前回よりも極悪な、「『COLORS』のイメージで、可能ならばらぶらぶで(笑)」というリクエスト付き(笑) 翼を持った、らぶらぶな(笑)子供達、可愛すぎです〜!! 勝手に、下の子が男の子で、上の子が女の子しかも男の子より気が強い(笑) ……とか頭の中で設定をふくらましちゃったり(笑) ありがとうございました〜v 頂いて四ヶ月も経ってから、おもむろにおはなしを書いてみたり(笑)
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