あの時、最初は空から墜ちる恐怖に身体が反応して、無意識に翼の拡げ方を思い出し たのだろうと、僕も『宿り樹』の皆も思っていた。 だから、大人の鳥達も、僕が空を飛べたことに喜んでくれた。 でも、その後いくらひとりで飛ぶ練習をしようとしても、一度として翼が拡がること はなかった。 唯一翼を羽ばたくことができたのは、君が遊びにきて僕の手をとった時、だけ。 やがて、誰の目にも、信じがたいひとつの事実が明らかになってきた。 それは、僕の翼は唯一君と手を繋いだ時にだけ、空を飛ぶための力を得るということ。 この事実は『宿り樹』の大人達を困惑させた。 特定の誰かと繋がることで、はじめて飛ぶ力を得ることのできる、鳥。 それは彼らにとっては、淋しさを抱えながらもただひとりで飛ぶからこそ、自由な翼 を手に入れることができるという、鳥の根源と定めを覆す存在だった。 この事実が明らかになると、大人の鳥達は極力僕を君に近づけまいとした。 僕が、君の力を借りて一緒に巣立ってしまうことを恐れて。 年老いた鳥が、僕に諭すように言った言葉が、今も胸にうずくように残っている。 ふたりで手を繋ぐことで、僕は飛ぶ力を得るかもしれないが、同時にそれは君の飛ぶ 力を奪い、君のひとりで何処までも飛ぶ自由を奪うことになる、と。 そんな大人達をよそに、君はこっそりと僕を連れ出して、人目のつかない森の奥で、 一緒に飛ぶ練習をしてくれた。 そして、春という季節が終わりを迎えるこの暁に、君はまだ眠っていた僕のところに 来た。行こう、と言って、強引に僕を起こして。 気付かれずに誰よりも早く、ふたりで、この『宿り樹』を巣立つために。 −−どうしたの? ねえ、行かないの? 手を繋いだまま、はじめてふたりで飛んだ日のことを思い返していた僕に、君は焦れ たように声をかける。 −−ううん。ただ……。 僕の胸のうちにうずくあの言葉が、まだ弱い僕の翼を迷わせていた。 一緒についてゆけば、君が何処までも飛ぶ自由を奪ってしまうかもしれない、と。 そんな僕に、大人がキミに何を言ったのかあたしは知らないけど、と呟いてから君は 僕の手を両手できつく握って、その褐色の瞳に真摯な色を湛えて、きっ、と見つめて、 そして。 −−あたしもキミと一緒なの。キミがいなかったら、あたし、寂しくて空なんて、 飛べない。キミと一緒じゃなきゃ、嫌なの! 燃えるような紅い前髪を揺らして、怒ったように君は一息にまくしたてた。 −−だからね、あたし達はふたり揃って、はじめてひとりの鳥に、何処までも飛べる 翼になれるの。これなら問題ないでしょ? あまりにも無茶な論理に、今度はちょっと悪戯っぽい表情をしてふわりと微笑んで。 −−一緒に飛ぼう、ねっ? |
LOIREのイツキリョウさんから、1000HitのGet記念に頂きました。 しかも前回よりも極悪な、「『COLORS』のイメージで、可能ならばらぶらぶで(笑)」というリクエスト付き(笑) 翼を持った、らぶらぶな(笑)子供達、可愛すぎです〜!! 勝手に、下の子が男の子で、上の子が女の子しかも男の子より気が強い(笑) ……とか頭の中で設定をふくらましちゃったり(笑) ありがとうございました〜v 頂いて四ヶ月も経ってから、おもむろにおはなしを書いてみたり(笑)
|