暫くの間、機内は、寄せるように鳴るマシン・ノイズだけになる。
規則的に、静かな音で、くりかえし、くりかえし。
「今夜は、月、見えないね……見たかったなぁ。」
深く座席にもたれて、殻を包む透明な風防の外に広がる灰色の闇を見上げて、娘はぽ
つりと言った。
時折、ちいさな粒子のようなものが、音の速さで風防にぶつかって、微かに光を放つ。
「この区域は、今、雨が降っていますから。」
「雨……ってなに……?」
不思議そうに、娘は水色の通信片を通じて、機械へと問いかけの言葉を送る。
「地上で蒸発した水分は、大気中に凝縮して灰色の雲の層となります。」
等しく時を刻んで、打ち寄せるマシン・ノイズが、二人の通信を一瞬切断する。
雑音の波は一瞬すぐに引いて、また機内に静寂が帰ってくる。
赤、橙色、紅。またたくように、操作板に警告灯が音もなく明滅する。
「そして、やがて無数の滴となってまた地上に降り注ぎます。それが、雨です。」
何事もなかったかのように、機械は記憶媒体から情報を引き出して、パイロットに答
えを返す。
警告灯の耳障りな音は、そっと切って、光の明滅だけをそのまま残して。
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