そら とぶ ゆめ Act.1  Eden / page4


「ふうん……私、見たことなかった。」 「気候制御された街の中では、ほとんど見ることはできませんからね。月も、雨も。」  そうね、と声に出さずに呟いて、娘は透明な殻をじっと見つめた。  煙のように幾重にも重なった、灰色の夜気から、幾千、幾億と墜ちてゆく、水の滴。  その無数の静かな落下の、ほんの一片だけが、炎をあげて音の速さで墜ちる翼と出逢 う。  水の流れを切るように、瞳からこぼれた水滴が頬をつたうように。  一瞬、風防に止まった雨の粒子は、はじけるように透明な表面をつたって、背後に流 れてゆく。 「まるで、涙みたい。夜空も、涙を流すんだ……ちゃんと、憶えておかなちゃ。」  たぶん、この夜空の涙が、私が飛んだ最後の記憶になるから。  飛ぶことが怖くて、だけど、何より大好きだった娘は、そう、心に呟いた。




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