眠ってしまった友達の前に立ち尽くしていた私を、「機械技師」は村まで送って行っ
てくれました。
そっと、手を繋いで、ふたりとも、何の言葉もなく。
夜の空気に混じって、ただ虫達の密やかな声だけが聞こえるなかで、私は、いろいろ
な言葉をぼんやりと想い返していました。
私に、小さな水色の金属を渡して、そのまま眠ってしまった『護り人』のこと。
「機械」のうたを聴く、「機械技師」と名乗った、旅人の娘のこと。
楡の樹のたもとで見た、空を、飛ぶ夢のこと。
片方の手の水色の金属の冷たさと、もう片方の手の、旅人の手の体温を感じながら。
「ツバサ、わたし、もう行かなくちゃ。」
村の入り口で、「機械技師」は私の手を離して、立ち止まりました。
はじめて、私の名前を呼んで。
「あの子のうた、わたし、必ずみんなに届けるから。」
最後にもう一度だけ、微かに儚く笑って、軽く手を振って、こう付け加えて。
「……そして、あなたのうたも。」
「えっ……?」
聴き返して私が顔を上げた時には、夜風に栗色の髪と白いコートをふわりとなびかせ
て、もう「機械技師」は、夜の向こうへ歩き出していました。
世界中の「機械」のうたを、人々に届けるために。
屋根裏に借りた小さな自分の部屋に戻ってからも、私はぼんやりと、草原での出来事
を考えていました。
翼を失ってからずっと、私のちいさな箱は、創られたばかりの「機械」のように、か
らっぽのままだったの思います。
それが、旅人と『護り人』が紡いだ幾つもの言葉で、あふれてしまって。
私も、きっと、うたが忘れられなくなってしまったのです。
この世界に残っている、「機械」達と同じように。
やがて私は、ちいさな箱からあふれる想いのままに、身の周りの荷物をまとめました。
世話になった村の人達に何も言わないのは気がひけたけど、時間がありません。
それでも、もう一度、かけがえのない友達には逢っておきたかった。
だから、まず私は、まとめた荷物を持って、楡の樹の草原まで走りました。
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