そら とぶ ゆめ Act.2  旅 人 / page11


 眠ってしまった友達の前に立ち尽くしていた私を、「機械技師」は村まで送って行っ てくれました。  そっと、手を繋いで、ふたりとも、何の言葉もなく。  夜の空気に混じって、ただ虫達の密やかな声だけが聞こえるなかで、私は、いろいろ な言葉をぼんやりと想い返していました。  私に、小さな水色の金属を渡して、そのまま眠ってしまった『護り人』のこと。  「機械」のうたを聴く、「機械技師」と名乗った、旅人の娘のこと。  楡の樹のたもとで見た、空を、飛ぶ夢のこと。  片方の手の水色の金属の冷たさと、もう片方の手の、旅人の手の体温を感じながら。 「ツバサ、わたし、もう行かなくちゃ。」  村の入り口で、「機械技師」は私の手を離して、立ち止まりました。  はじめて、私の名前を呼んで。 「あの子のうた、わたし、必ずみんなに届けるから。」  最後にもう一度だけ、微かに儚く笑って、軽く手を振って、こう付け加えて。 「……そして、あなたのうたも。」 「えっ……?」  聴き返して私が顔を上げた時には、夜風に栗色の髪と白いコートをふわりとなびかせ て、もう「機械技師」は、夜の向こうへ歩き出していました。    世界中の「機械」のうたを、人々に届けるために。  屋根裏に借りた小さな自分の部屋に戻ってからも、私はぼんやりと、草原での出来事 を考えていました。  翼を失ってからずっと、私のちいさな箱は、創られたばかりの「機械」のように、か らっぽのままだったの思います。  それが、旅人と『護り人』が紡いだ幾つもの言葉で、あふれてしまって。  私も、きっと、うたが忘れられなくなってしまったのです。  この世界に残っている、「機械」達と同じように。  やがて私は、ちいさな箱からあふれる想いのままに、身の周りの荷物をまとめました。  世話になった村の人達に何も言わないのは気がひけたけど、時間がありません。  それでも、もう一度、かけがえのない友達には逢っておきたかった。  だから、まず私は、まとめた荷物を持って、楡の樹の草原まで走りました。




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