そら とぶ ゆめ Act.2  旅 人 / page13


 何時の間にか、あたりはやわらかい紺色に包まれて、常緑樹のかたちだけが、くっき りと影絵のように、黒く風景を切りとっていた。  旅人の話した、楡の樹の草原と同じように。 「その胸のペンダントって、『護り人』にもらった……。今は、なにも?」  オルガン弾きの少年は、旅人の胸のペンダントを指差して、そっとたずねる。 「これまでは、ずっと眠ったままでした。でも、不思議なことに、この間、一瞬だけ私 にある情景を伝えました。雨の降る、海の風景を。」 「海は……ここからは、ずいぶん遠いね。」  少し心配そうな少年の言葉に、少し安心させるように笑って、旅人は立ちあがった。 「ええ、だからもうそろそろ行かなくては。本当に、ありがとうございました。」 「待って。」  夜の向こうに歩きかけた、若い旅人を引きとめて。  少年は、オルガンという「機械」に繋がる、黒と白の鍵盤の前に座った。   「今ならきっと、弾ける気がするんだ。僕が、すごく弾きたいから。」  すうっと、深く息を吸い込んで、奏でたい和音の連なりを想い浮かべて。 「たとえ飛べなくても、何時かまた、空を飛びたいと想えるようになるといいね。」  最後にそう言って、オルガン弾きの少年は、「機械」から音楽を奏でた。  旅人の話から受け取った想いを言葉へと、言葉を詩へと、繋いでいって。   君はまるでシャボンのような 夢を話して歩く旅人   道に腰をおろしほほえむ その鞄の中身は何?   集まる子供たちの目は とても輝いて見えるよ   風は色を変えてゆく 君の手のひらで   よそみしてた少しの間に 背中向けて歩きはじめた   舗道にきらめく光は 鞄をこぼれ落ちた言葉   群がる子供たちの手は 夢のかけら拾いあつめ   僕は急いで駆けだす 君を追いかけて   いつかきっと会える日を信じてた 僕はずっと君について行こう   街から街へと旅をつづけて 君を待つ子供に会いに行こう   壊れかけた地球に 君のつけた足跡 つづく   サヨナラと手を振る君 北風に連れ去られてく   どんなに追いかけても 君は遠ざかる   いつかまためぐり逢うその時まで 僕はずっと君を待っているよ   鞄にあふれるほどの物語 世界中の僕が君を待ってる   壊れかけた地球を 君は地図を拡げて 歩く   世界中の僕が君を待ってる 世界中の僕が君を待ってる   世界中の僕が君を待ってる 世界中の僕が君を待ってる                                    Fin.               挿入詞:『旅 人』/遊佐 未森 作詞・作曲:外間 隆史                            アルバム「空耳の丘」より




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