そら とぶ ゆめ Act.2  旅 人 / page6


「……あなたは、どなたですか?」 「あら、人に名前をきく時は、まず自分の名前を教えなくっちゃ。」  その不思議な空気につられてつい問い掛けてしまった私に、女の人は悪戯っぽく言う のでした。 「……私は、村では、ツバサと呼ばれてます。」 「はじめまして。わたし、「機械」のうたを集めて、旅をしてるの。」  少し詰まって淡々と答えた私に、もう一度ふわりと微笑んで。 「だから、「機械技師」って呼ばれてる。」  それっきり、しばらくふたりとも何も言わずに、午後の時が過ぎてゆきました。  「機械技師」と名乗った女の人は、それを気にする風でもなく、「機械」の方を向い て、瞳を薄く閉じて立っていました。  夕方に近い風を受けて、何かをその中に聴き取ろうとするように。  私が育てられるずっとずっと昔から、「機械」はここにいたそうです。  ささやかな草原に、ひとり残った楡の樹の傍らに立って、樹を護るように。  だから、この「機械」は『楡の護り人』と呼ばれていました。  はじめて『護り人』が目覚めて、その円硝子の瞳を明滅させた時は、村中で話題にな ったものでした。  それも、『護り人』が目覚めるのは、私が傍らにいる時だけ。  だから、始めは沢山の人が『護り人』を見にきたのです。  ほとんどの人は、単なる退屈しのぎだけで見にきていました。  それも、瞳は明滅させても、その身体は動かないとなると、つまらなそうな顔をしたり。  私は、友達が見せ物のように扱われるのだけは、嫌でした。  ちょうど、私が自分の動かない翼のことに、興味を持たれるのが嫌だったように。  だから、私は人が来ると、冷淡に話したり無視したりして、遠ざけていたのです。  『護り人』が楡の樹を守るように、私も、『護り人』を護ろうとして。  でも、「機械技師」と名乗る女の人は、他の人とは違う不思議な空気を纏っていました。  そして、何より、私よりも『護り人』のことを知っていそうな気がして。  だから、私は、何時の間にか、少しずつ「機械技師」に話しかけていたのです。




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