「……あなたは、どなたですか?」
「あら、人に名前をきく時は、まず自分の名前を教えなくっちゃ。」
その不思議な空気につられてつい問い掛けてしまった私に、女の人は悪戯っぽく言う
のでした。
「……私は、村では、ツバサと呼ばれてます。」
「はじめまして。わたし、「機械」のうたを集めて、旅をしてるの。」
少し詰まって淡々と答えた私に、もう一度ふわりと微笑んで。
「だから、「機械技師」って呼ばれてる。」
それっきり、しばらくふたりとも何も言わずに、午後の時が過ぎてゆきました。
「機械技師」と名乗った女の人は、それを気にする風でもなく、「機械」の方を向い
て、瞳を薄く閉じて立っていました。
夕方に近い風を受けて、何かをその中に聴き取ろうとするように。
私が育てられるずっとずっと昔から、「機械」はここにいたそうです。
ささやかな草原に、ひとり残った楡の樹の傍らに立って、樹を護るように。
だから、この「機械」は『楡の護り人』と呼ばれていました。
はじめて『護り人』が目覚めて、その円硝子の瞳を明滅させた時は、村中で話題にな
ったものでした。
それも、『護り人』が目覚めるのは、私が傍らにいる時だけ。
だから、始めは沢山の人が『護り人』を見にきたのです。
ほとんどの人は、単なる退屈しのぎだけで見にきていました。
それも、瞳は明滅させても、その身体は動かないとなると、つまらなそうな顔をしたり。
私は、友達が見せ物のように扱われるのだけは、嫌でした。
ちょうど、私が自分の動かない翼のことに、興味を持たれるのが嫌だったように。
だから、私は人が来ると、冷淡に話したり無視したりして、遠ざけていたのです。
『護り人』が楡の樹を守るように、私も、『護り人』を護ろうとして。
でも、「機械技師」と名乗る女の人は、他の人とは違う不思議な空気を纏っていました。
そして、何より、私よりも『護り人』のことを知っていそうな気がして。
だから、私は、何時の間にか、少しずつ「機械技師」に話しかけていたのです。
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