そら とぶ ゆめ Act.2  旅 人 / page7


「「機械」って、うたを歌うのですか?」  とうとう、遠慮がちにぽつりと、私は「機械技師」にたずねました。  すると、「機械技師」は、逆にこう私にたずねてきたのです。  瞳を閉じて耳を傾けたまま、静かな声で。 「ほとんどの「機械」は消えてしまったのに、どうしてこの子達だけ今もここにいるの か、知ってる?」 「うたを歌えるから、ですか?」  私の答えに、「機械技師」は、そっと首を横に振りました。 「……この子達は、うたを忘れられなかったから。」  涼しさを含んだ風が、何度か樹の枝を揺らしていく間、私達はそのまま何も言いませ んでした。  やがて「機械技師」は、くるりと背を向けて屈んで、傍らの旅行鞄を開け始めました。 「「機械」の想いってね、宝石箱みたいなものなの。はじめは何もないのだけど、そこ に、いつも人から届いた言葉を大切にしまってる。」  そう言いながら、「機械技師」も鞄から、小さな箱を取り出していました。  淡い翠の草達に映る、ずいぶんと長くなってきた、華奢な旅人の、影。 「そうして、箱から大切な言葉があふれると、はじめて自分の想いを育てるようになっ て、うたを歌いだすの。」 「私たちが、歌うみたいに、ですか?」  淡々とした私の問いに、また軽く首を横に振って。 「たいていは、人の言葉は話せないから、空気や風の中に、想いを波にして送りだすの。 それが、この子達のうた。」 「……海の波と、一緒なんですね。」  そう、私はぽつりと口にしました。  理由はわからないけど、何故だかふと、そんな風に想ったのです。  「機械技師」は屈んだまま、少し驚いたように顔だけ向けて、軽く頷きました。 「言葉を届けた人達はいなくなってしまったのに、忘れられなくてずっと歌ってる。」  立ちあがって、箱を手に持って、私の方に振り向いて。  ふわりと、白いコートが空気に揺れました。 「だから、私はそのうたを集めて、旅をしてるの。この子達の想いを、届けるために。」  柔らかいその微笑は、何処か儚く見えて。  「機械」がうたを忘れないように、私は、今でもその微笑を憶えています。 「誰に……?」 「遠いところにいる、みんなに。」




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