「「機械」って、うたを歌うのですか?」
とうとう、遠慮がちにぽつりと、私は「機械技師」にたずねました。
すると、「機械技師」は、逆にこう私にたずねてきたのです。
瞳を閉じて耳を傾けたまま、静かな声で。
「ほとんどの「機械」は消えてしまったのに、どうしてこの子達だけ今もここにいるの
か、知ってる?」
「うたを歌えるから、ですか?」
私の答えに、「機械技師」は、そっと首を横に振りました。
「……この子達は、うたを忘れられなかったから。」
涼しさを含んだ風が、何度か樹の枝を揺らしていく間、私達はそのまま何も言いませ
んでした。
やがて「機械技師」は、くるりと背を向けて屈んで、傍らの旅行鞄を開け始めました。
「「機械」の想いってね、宝石箱みたいなものなの。はじめは何もないのだけど、そこ
に、いつも人から届いた言葉を大切にしまってる。」
そう言いながら、「機械技師」も鞄から、小さな箱を取り出していました。
淡い翠の草達に映る、ずいぶんと長くなってきた、華奢な旅人の、影。
「そうして、箱から大切な言葉があふれると、はじめて自分の想いを育てるようになっ
て、うたを歌いだすの。」
「私たちが、歌うみたいに、ですか?」
淡々とした私の問いに、また軽く首を横に振って。
「たいていは、人の言葉は話せないから、空気や風の中に、想いを波にして送りだすの。
それが、この子達のうた。」
「……海の波と、一緒なんですね。」
そう、私はぽつりと口にしました。
理由はわからないけど、何故だかふと、そんな風に想ったのです。
「機械技師」は屈んだまま、少し驚いたように顔だけ向けて、軽く頷きました。
「言葉を届けた人達はいなくなってしまったのに、忘れられなくてずっと歌ってる。」
立ちあがって、箱を手に持って、私の方に振り向いて。
ふわりと、白いコートが空気に揺れました。
「だから、私はそのうたを集めて、旅をしてるの。この子達の想いを、届けるために。」
柔らかいその微笑は、何処か儚く見えて。
「機械」がうたを忘れないように、私は、今でもその微笑を憶えています。
「誰に……?」
「遠いところにいる、みんなに。」
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