「……『護り人』、いつかまた、動けるようになるの?」
夕風に溶け去りそうに、無意識にうまれた、微かな言葉。
それは、今までずっと答えを知りたくて、それでいて知りたくない、問いでした。
ちょうど、自分の背の、動かない翼のことと、同じように。
その私の言葉に、「機械技師」は、ちょっと聞き返すようにその優しい瞳を瞬いて、
そのまま、しばらく何も答えませんでした。
「この子、あなたが気に掛かって、何か伝えたくて、うたを想い出してる。」
やがて「機械技師」は、空の中に言葉を探すように、軽く梢の向こうを見上げて、ゆ
っくりと答えました。
「だから、もしかしたら、動かせるかもしれない。」
「ほんとうに?」
私は、思わず喜びの声を出しました。そんな声を出す自分に、少し戸惑いながら。
「……でも、本当に動かしてしまっていいのか、わからない。」
そんな私を鎮めるように、「機械技師」は、ぽつりと言葉を継くのでした。
「どうして、ですか?」
「動かしたら、うたを歌いやめて、また深い眠りに就いてしまうかもしれない。」
「もし僕に何か伝えたがってるのが本当なら、『護り人』を動かして。」
静かにあふれてくる、自分の想いに身を任せて、若い旅人に、言葉を届けて。
「……だって僕は、『護り人』のうたを聴くことはできないのだから。」
しばらくの間、葉ずれの音を鳴らす夕風だけが、楡の樹の時間を通ってゆきました。
やがて「機械技師」は、決心したように、そっと瞳を閉じて、小さく息をつきました。
「……うまくいかなかったら、ごめんなさい。」
そして、胸に抱いた金属の箱を軽く開けて、ふぅ、と息を吸って。
「機械技師」は、『護り人』を動かしたのでした。
瞳を閉じたままその声を紡いで、届くようにと、うたを歌って。
それは、不思議なうたでした。
詞は何もなく、高く透き通った、日々の祈りのように慎ましくて厳かな歌声が、ただ
ゆるやかに響くのです。
まるで、このささやかな草原に流れる時間の中に、旋律を描いて連なる、波のように。
そして、たったひとつの声が紡ぐうたなのに、優しく緊張した歌声が、幾重にも、幾
重にも響いて聴こえるのでした。
「機械技師」が旅をして聴いてきた、いくつもの想いの糸を、織りなして。
時折、ふっと息をつく「機械技師」に、寄り添って、一緒に歌うように。
手にした箱の中には、金属でできた、「機械」仕掛けの娘の人形が立っていました。
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