そら とぶ ゆめ Act.3  Psi-trailing / page12


    * 「……るな?」  夜の影に潜む生物達の気配のように、微かに聞こえて、年老いた胸を騒がせる、ざわ めき。  その聞き慣れぬざわめきの中に、ぽつりと娘の呟きが聴こえた気がして、風読みはそ の身を床からそっと起した。  先程、つい娘に話しすぎてしまったことが、彼の胸のうちで引っかかってはいた。  あの時は、『機械技師』の手紙に書かれていた知らせに、驚いて少し興奮していたの だと、思う。  自分を知っている『機械』が、この世界に眠っていたのを見つけたという、旅人の知 らせに。  風読みが異変に気づいたのは、そんなことを思いながら、娘の様子を見ようと病のた めに鈍い足を急かして居間を通過しかけた、その時だった。  普段は風さえも通さぬ、観測所の塔へと続く『機械』の扉。  それが、あたかも螺旋の石段へと誘うように、大きく開いたままになっていた。 「何故、塔の扉が……。」  この扉は、絶対に自分に対してしか開かないはずなのに、と、心の内で呟く。  でも、それならば、開いた扉の奥から届く、この胸を騒がせるざわめきは、何なのか。 「いけない、あの『機械』に触れるには、るなの心はまだ……!」    そのざわめきの正体を悟った初老の風読みは、病んだ身体を省みず、冷たい石段を駆 け上がり始めた。




←Prev  →Next

ノートブックに戻る