そら とぶ ゆめ Act.3  Psi-trailing / page4


「るなはまだ小さかったからね。その旅人も、少女と言っていいくらいの歳だった。」  少し寝椅子に深くもたれ直し、ゆったりとした姿勢になって、続ける。  時の糸をたぐって、遠い記憶を掬いあげるように。 「そんな若い旅人がいきなり訪ねて来て、観測所の塔に眠る『機械』に逢わせて欲しい ときたものだから、さすがの僕も驚いたよ。」   塔にねむる、『機械』って?  きょとんとした面持で、娘は首飾りを介して、風読みに尋ねる。  無意識に、灰色の空へと伸びる、塔の螺旋階段に続く扉を見やって。  過去の観測所に続くその扉は、いつもは風読みの手によって、『機械』製の鍵で固く 閉められていた。  年に一度、雨降りを知らせる灯りを燈す時を除いて。 「……夏頃だったか、塔の風向計のことを僕に尋ねたことがあったよね。」   鳥さんの、かたちの? 「だから、鳥じゃないってあの時も言っただろう。あれは、鳥のような翼を持った、 空を飛ぶ『機械』を模っているんだ。」  風読みは、一瞬可笑しそうに軽く咳き込んでから、静かに、言葉を継いだ。 「その本物が、塔の中には眠ってる。彼女は、空を飛ぶ『機械』のうたを聴きに、ここ まで来たんだ。」  窓の外では、相変わらず、空から雪が降り続けている。  この冬の夜の、ささややかなさざめきを吸収して、その白の六角形に包み込んで。  地上に降りた細やかな氷の結晶は、乾いた色の大地を、ほんのひとときだけ銀の無彩 色に染めてゆく。  海に降りた儚い音の結晶は、蒼い波に受け止められて、ゆるやかな水の循環へと還っ てゆく。   空を飛ぶ『機械』って、うたを歌うの? 聴いてみたい。  硝子を一枚隔てた暖かい部屋で、燃やされた薪が、ぱちりと弾けるような音を立てた。




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