海岸に埋まりかけた半月の中から出ると、何時の間にか辺りにはすっかり夜の帳が降
りていた。
高い音をたてて通り過ぎる海風に刷き清められて澄んだ、この世界の、大きな半円球。
見上げると、あの『機械』が憶えていて創りだした夜空と少しも変わらずに、そこに
在る星座の形、月の形。
雨の夜でも、雲が覆っていても、地上からは見えなくなっても、きっと星や月の満ち
欠けの形は、きっと、ずっと変わらないのだろう。
そんな風に思いながら、『月帽子織物店』を後にした旅人の背に、ぱたぱたと駆けて
来る足音が、届いた。
「間に合った……。はい、冬の海風は寒いですから。」
女の子は、まだ早い息も整えないままで、えいと背伸びをして、できあがったばかり
の蒼い織物を、旅人にふわりとかけた。
肩に緩やかに巻かれた、女の子の小さな星空は、『機械』に吊るされた柔らかな橙色
の明かりに照らされて、ちらちらと、微かな瞬きを映す。
その瞬きの中でひときわくっきり輝く、『星砂』で形作られた、小さな月。
「わたし、織る数を間違えたことなんて、今まで一度だってないんですよ。」
少し驚いた表情の旅人に、にっこりと笑って言う。
「月祭りの夜も、気が付いたら一枚多く織ってて、間違えたかなと思っていたんです。
そうしたら、ちゃんと『機械技師』さんが訪ねて来てくれた。」
「だから、今日も一枚多く織ってたのだけど、この織物は始めから旅人さんの分、だっ
たんです。」
月明かりを背に、幸せそうに笑って自信たっぷりに言う女の子を見ていると、何だか
本当に月の小さな魔法使いを見ているようで。
思わず、旅人もふわりと、微笑む。
「……ありがとう、ございます。」
「きっと、織物が『機械技師』さんのところへ導いてくれます、から。わたしの織物っ
て、結構侮れないんですよ。」
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