そら とぶ ゆめ Act.4  tears (I) / page3


   ポンパドールくるくるり 糸まき からめて    もっともっと輝いて 満月    女の子の歌声に合わせて、カラコロと軽やかな音を奏でる木製の織り具が、次々と縦 糸と横糸を織り合わせる。  そうして、ふたつの蒼い糸が出逢って、ひとつの夜空を紡いでゆく。  時折、ちらちらと瞬く小さな星を、その織物の中に織りこんで。 「……あれ?」  ふと、何かおかしい気がして、女の子は星空を織る手を、止めた。   「注文の数より、一枚、多い……。もしかして、余分に織っちゃった?」  今までどんなに注文が重なって忙しい時でも、織る数を間違えることはなかったの に、と心の内で、思う。  たった一度、この冬を迎える前の、村の二度目の月祭りの夜を、除いて。  不思議な旅人が、この『月帽子織物店』に訪ねて来た、月祭りの夜。あの時も、注文 よりも一枚多く織ってしまっていた。  でもあの夜だって、結局織物はその人の分のだったのだから、数は間違ってなかった のだ。  そんな風に考えながら、ふと、その不思議な旅人との夜を、少し懐かしんで想いだす。 「じゃあ、今夜もまたお客さんが来るのかしら……?」  少し幸せそうに微笑んで軽くうなずいてから、女の子は歌いながら織物の続きを始める。   川面はケセラセラ まわるる 太陽   きっと きっと あさっても しあわせ  そんなテンポの早い歌声に合わせて、女の子の小さな手から、ささやかな星空が創り だされてゆく。  『星砂』と呼ばれる、この地方の砂浜で採ることができる、希少な五角形の砂の結晶。  その『星砂』を織り込んで星座のかたちを描いた、深い夜天の色の、手作りの織物。  それが、この『月帽子織物店』の、唯一の品物だった。  ふと、何故だか気が向いて、女の子は少し多めに『星砂』を掴んだ。  そうして、『星砂』を集めて織り込んで、小さな三日月のかたちを織物の夜空に浮か べてみる。 「こんばんは。」  もう夜の始まりを迎えて、半ば店じまい状態の『月帽子織物店』に旅人が訪ねて来た のは、その時のことだった。 「はあい、いらっしゃいませ。」  ほんの少し胸を弾ませながら、女の子は織り具を置いて、とことこと店先へと出ていった。  半円球の部屋から戸口へと出てくると、ふんわりと海風が短い前髪を撫でる。  その海風の向こうに、旅装束の若い青年が、立っていた。 「突然ですみません、お願いがあるのですが……。もしよろしければ、このお店に眠る 『機械』に、逢わせて頂きたいのですが。」  若い旅人は、丁寧な口調で、客ではないことが少し申し訳ない様子で、女の子に言葉 を切りだす。 「すごいなぁ、私の勘って、本当によく当るのよね。」  そんな旅人の訪れに、少し驚いたように瞳を見開いて、嬉しそうに女の子は微笑ん で、こう訊ねる。 「あなたも、『機械技師』さん、でしょう?」  今度は、若い旅人が、一瞬驚きに目を開いた。そうして何処か懐かしそうな、表情 で、微笑む。 「……彼女も、ここに来たのですね。」    *




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