「今は、わたしのお手伝いをやってもらってるのだけど、」
女の子は、『機械』と手元の織り具を繋いで、半円球の部屋を横切っている蒼い糸を
見て、少し恥ずかしそうに言ってから、言葉を続ける。
「この子、昔はわたしと同じことを、やっていたんですよ。」
「え?」
あっさりと、意外なことを答えた女の子に、旅人は思わず聞き返す。
「わたしが織り物に星空を創るように、この『機械』は、建物全体に星空を創りだすん
ですよ。」
今度は女の子が、『機械技師』がこの月帽子織物店に眠る『機械』を動かした時のこ
とを、語った。
村の月祭りの夜に、『機械』のうたを集めていると言って、旅人と同じようにこの店
に訪れてきたこと。
彼女と話していた時に、不意に、操作板が緑色に明滅して、『機械』が動き出したこと。
『機械』がゆるやかに回転し、その丸い硝子板から、半円球の天井へと向けて、無数
の星達を映しだしたこと。
そして、流れ星と一緒に、『機械』から、遠い昔の、歌が奏でられた、こと。
「この『機械』を創った人は、どうして星空を映そうと思ったのでしょうね。」
幼い頃出逢った『機械技師』の姿と重ね合わせながら話を聞いていた旅人は、静かに
呟いた。
「きっと、自分だけの星空を、自分の力で創ってみたかったんですよ。」
にっこりと笑って、答える女の子。
「だって、わたしだって、自分だけの星空を織り物に創るの、大好きですから。」
自信いっぱいの解答に、思わず若い旅人からも微笑みがこぼれる。
「そうかも、しれないですね。」
「でも、『機械技師』さんは、不思議なことを言ってました。何だか、寂しそうに。」
「……彼女は、何と?」
「この子の創られた頃は、空を見上げても、星や月が見えなかったんですって。」
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