そら とぶ ゆめ Act.4  tears (I) / page8


「『機械技師』さんの時と、一緒……。」  幾筋も降り注ぐ流れ星を見つめて、思わず女の子は呟いた。  あの月祭りの夜も、そうだった。『機械』が停まる直前に星が流れて、聞き取ること のできない、遠い昔の歌が、響いて。  だが、旅人は、夜空を映す『機械』が奏でる歌を、知っていた。ずっと、憶えていた。  確かに、何処かで、この歌を歌ったことを。想い出せない、大切な、誰かへと。  記憶の箱から溢れてくる言葉にまかせて、旅人も、『機械』と声を合わせて、うたを 歌う。   低く飛ぶ飛行機の 黒い影に逃げながら   一人で迷い込んだ 小さな靴の 音はまだ帰らない   誰かの背中を 呼ぶことも知らないで  低く満ちた月灯りの夜空に、降りしきる光。何処かで見たことのある、光景。  うたを歌いながら、やがて旅人は想い出した。『機械技師』と逢って旅に出たあの 日、『護り人』の側で眠ってみていた夢を。  無数の雨の滴が墜ちてゆく、まるで月が涙を流しているような夜に、自分が空を飛ん でいた夢。  そうして、不意に右の翼が動かなくなって、自分も滴となって、墜ちていった夢。  『機械』のうたと、幼い日に見た空を飛ぶ夢が、想い出せなかったふたつの答えのう ち、ひとつの鍵を、開けた。  自分が、遠い時間、遠い世界で、いったい何だったのかを。  双つの瞳から、涙が、こぼれおちた。   空を見上げた 瞳からこぼれる 君の名前を知りたい   声にならずに 消えてゆく言葉が 帰りの道を遠くする   流れる星を呼び止めて ぼくらは歌を歌えるから   明日旅する 夜明けの天使に 君の名前きっと伝えるよ  こぼれてくる涙を抑えずに、旅人は歌い続けた。  やがて『機械』の創る夜空がやがて朝を迎え、うたが止んで『機械』が眠りに就い た、その時まで。 「……やっぱり、旅人さんも、『機械技師』さんだったの、ですね。」  大きな瞳を、少しうるませた女の子が、そっと、呟いた。 「……違います。私も、この『機械』と同じように、彼女に、永い眠りを醒ましてもら ったのです。やっと、想い出した。」  ようやく涙をぬぐって、若い旅人は、穏やかに女の子に微笑んで、想い出したことを 言葉に変換する。  胸に揺れる、水色の三日月の『機械』を、そっと、握って。 「……私は、この姿で生まれるよりも、ずっと遠い昔、空を飛ぶための、『機械』だった。」




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