(さすがに、急がないと、もうもたないな……。)
冬の旅を強行したことで、確実に彼女に近づいたが、同時にそれは、旅人の体力に多
大な負担を強いた。
加えて路銀も底を尽き、ここ数日は凍てつくような夜の海辺に野宿して、浅い眠りし
か得れない日々が続いていた。
(海辺の村……『観測所』のある村まで何とかたどり着いて、一旦諦めて休もう……。)
そう覚悟を決めて、旅人は浅い眠りを諦めて立ち上がった。海風に備えて、蒼い織物
でしっかりと首を包み込んで、護る。
ふうと息をついて見上げる暁の澄んだ藍色の夜天には、無数の星に混じって、しるべ
のように黄金色の輝きを放つ、小さな惑星。
微かにしか見えない海と陸との境界からは、あたかも闇夜の精霊達がうごめくような
海鳴りの響きが続いている。
その、海鳴りの響きを、貫いて。
風読みっ。 風読みっ。 風読みっ!
今度は、確かに聴きとった。水色の月の『機械』を通じて届いた、悲痛な、呼び声。
それは、『機械技師』の声ではなかった。何処かで聴いたことがあるような、声。何
処かで憶えのある、『風読み』という、言葉。
だが、いくら想い出そうとしても、霧のかかったような記憶の奥底へは、手は、届か
ない。
「……彼女に、『機械技師』に逢えれば、きっと何かがわかる。」
かつて、空を飛ぶ『機械』だった若い旅人は、自分にそう言い聞かせて、夜の海辺
を、歩き続ける。
*
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