そら とぶ ゆめ Act.5  飛行夢(そらとぶゆめ) / page2


(さすがに、急がないと、もうもたないな……。)  冬の旅を強行したことで、確実に彼女に近づいたが、同時にそれは、旅人の体力に多 大な負担を強いた。  加えて路銀も底を尽き、ここ数日は凍てつくような夜の海辺に野宿して、浅い眠りし か得れない日々が続いていた。 (海辺の村……『観測所』のある村まで何とかたどり着いて、一旦諦めて休もう……。)  そう覚悟を決めて、旅人は浅い眠りを諦めて立ち上がった。海風に備えて、蒼い織物 でしっかりと首を包み込んで、護る。  ふうと息をついて見上げる暁の澄んだ藍色の夜天には、無数の星に混じって、しるべ のように黄金色の輝きを放つ、小さな惑星。  微かにしか見えない海と陸との境界からは、あたかも闇夜の精霊達がうごめくような 海鳴りの響きが続いている。  その、海鳴りの響きを、貫いて。    風読みっ。 風読みっ。 風読みっ!  今度は、確かに聴きとった。水色の月の『機械』を通じて届いた、悲痛な、呼び声。  それは、『機械技師』の声ではなかった。何処かで聴いたことがあるような、声。何 処かで憶えのある、『風読み』という、言葉。  だが、いくら想い出そうとしても、霧のかかったような記憶の奥底へは、手は、届か ない。 「……彼女に、『機械技師』に逢えれば、きっと何かがわかる。」  かつて、空を飛ぶ『機械』だった若い旅人は、自分にそう言い聞かせて、夜の海辺 を、歩き続ける。     *




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