「……そうしたらね、まあるい壁いっぱいに、星空がひろがったの。『機械』が、ずっ
と憶えていた昔の星の形を、映しだしてね。」
群がる子供達におはなしを語る、柔らかく澄んだ声。それは女性の声、だった。
「白鳥の形、琴の形、さそりの紅い瞳の星……昔からずっと変わらない星座を映してね。
まるで、窓辺で一晩中夜空を眺めているように、ゆっくり、ゆっくりと、東から西へと
巡ってゆくの。」
穏やかな音楽のように語られる言葉で、紡がれる遠い国の『機械』の物語に、子供達
は瞳を輝かせて耳を傾ける。
「そうして、東から昇った星達が西の空に傾いて、まるい建物に朝が訪れようとした瞬
間にね、最後に『機械』はとっておきの贈り物を、くれた。」
「とっておきの贈り物って?」
「……『機械』が、お別れに、うたを奏でてくれたの。夜空一面に、いくつもの、いく
つもの、流れ星を降らせて、ね。」
子供達からあがる、歓声と感嘆の声。それを機に、一気に賑やかな子供達の質問や話
し声が店の片隅であふれだす。
凍てついた大地を甦らせ新たな春を呼ぶために、村を、街道を、野原を、ほんのひと
ときだけ天から降りてきた水に沈める、雨降り。
何時訪れるとも知れぬ雨降りをやり過ごして息を潜める、不安と退屈で満ちた冬の終
わりに、暖かな灯のもとで語られる旅人の物語。
子供達にとっては、その言葉のひとつひとつが、まるで宝箱に収められた色硝子や鉱
石の欠片のように、憧れと彩りにあふれていた。
「『機械』はどんなうたを歌ったの? ねえ、旅人さん歌って聴かせてよ!」
「みんなが、良く知っているうたよ。私なんかよりもずっと素晴らしい歌い手から、そ
のうち聴けますよ。」
姿を変えつづける暖炉の明かりに照らされて、輝いた瞳で尋ねてくる子供の質問を、
旅人は悪戯っぽく微笑んでかわす。
「ねえ、どうして昔の人は、星を見る『機械』を創ったの?」
「その『機械』を創った人は、星が大好きだったんだよ。だって、『機械』なら昼間だ
って星空が見れるもの!」
「……きっと、その通りだと思う。」
その言葉を最後に、旅人はふわりと立ち上がる。
娘の場所からではその面影は窺えず、子供達に囲まれた、肩まで届く栗色の髪の後ろ
姿だけが、わずかに見えた。
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