そら とぶ ゆめ Act.6  tears (II) / page14


  ”see you again, fly with me again,'little luna',    another day, another sky.”  操作板に、読み取ることのできない言葉を燈して、残して。  『機械』は燃え墜ちてゆく自らの身体から、娘と旅人を乗せた核を、灰色の空へと、 打ち上げた。  その、『機械』の残した核から、自らの背の、雪のように真白い、何処までも飛ぶた めの双つの休まない翼を拡げて。  両の手で、娘をしっかりと抱きとめて護って、旅人は自らの翼で空へと飛翔した。  遠い昔、別の世界で、娘とふたりで駆けていた、懐かしい空へと。    低く飛ぶ飛行機の 黒い影に逃げながら    ひとりで迷い込んだ 小さな靴の 音はまだ帰らない    誰かの背中を 呼ぶことも知らないで  遠くから、うたが、聴こえた。  耳から聴こえるのではなく、空気の隙間を波となって伝わって、心へと直接届く、うた。  それは、旅人が『月帽子織物店』の『機械』から聴いたうたと、そして、遠い記憶の 片隅に残っていたうたと、同じだった。   旅人さん、風読み……。  『らじお』を通じて聴こえてきた風読みの確かな歌声と、しっかりと抱きとめる旅人 の腕に、娘は恐る恐るその瞳を、開いた。  空から墜ちてくる、無数の水滴達と一緒に、ゆっくりと大地へと、降りている。  右と左、双つの白い翼で羽ばたく、旅人の手をしっかりと握って、決してひとりには ならないよう、護られて。  真下に広がる、深緑の滴の森の片隅が、先に墜ちた『機械』が燃える炎で、橙色に輝 いている。  その橙色の光に照らされて、ちらちらと光を映す、水滴。    空を見上げた 瞳からこぼれる 君の名前を知りたい    声にならずに 消えてゆく言葉が 帰りの道を遠くする  風読みが歌ううたを聴きながら、娘もまた、全てを想い出していた。  遠い昔、別の世界で、月の見えない夜に雨の水滴と一緒に墜ちていった時の、『機械』 のフライト・レコーダに残された記憶を。  本当の名前を知りたいと言われたけど、わたしは答えなかった。  たったひとりで墜ちるのは、怖かったから。それに、『翼』にもらった名前が、も う、わたしの本当の名前だった、から。  最後は、『翼』が、決してひとりにはしないと、約束して、くれた。  墜ちてゆくなかで、はじめて見た、空から降る雨。何だか、まるで夜空が涙を流して いる、みたいだった。       流れる星を呼び止めて ぼくらはうたを歌えるから    明日旅する 夜明けの天使に 君の名前きっと伝えるよ  やがて、旅人と娘は、滴の森へと舞い降りて行った。  墜ちた『機械』が炎をあげている場所から、少し離れた背の高い大樹の枝に座って、 まだ飛び慣れない翼を、休める。




←Prev  →Next

ノートブックに戻る