鳥は鳥に 〜Royal milk tea〜 / page2


 マグを手に、ひんやりとしたコンクリート製の螺旋階段を上ってゆく。  途中の円い窓でちょっと立ち止まって外を覗いてみると、いつもと同じの淡い乳白色 の霧が、波打つようにぼんやりと漂っている。  人と、鳥とを隔てる、『海』という名の淡い霧。  遠いはるかな昔は、人と鳥はひとつだったと、聞いた事がある。  でも今は、人と鳥は別れて暮らしていて、それぞれの領域の境界を『海』と呼ばれる 不思議な乳白色の霧が横たわっていて、人も鳥もこの『海』を越えることはできない。  そうして、鳥はたったひとりで空を飛び旅を続け、人は大地の上で寄り添って、定住 して日々を暮らす。広大な『海』が隔てることで、互いの生き方を護られて。  ただ、境界の『海』の中までは、霧への耐性が強い者ならば、特に身体への影響もな く立ち入ることができる。  だから、『海』には鳥や『海』そのものの研究のために、物好きな僅かな数の学者が 集まって生活している。『海』に浮かぶ島に見たてて、"birds island"と呼んでいる、 小さな研究所で。  鳥達にも、中には物好きな性格のものもいるらしく、『海』が気に入ってしばしば訪 れてくる鳥や、時には"birds island"の屋根に止まりにくる強者も、いたりする。 「……ほんと、研究員って物好きばっかりなんだから。」  その研究員達のお世話とお手伝いをしながら、ずっと"birds island"に住み込んでる 自分のことは棚に上げて呟いてから、私はまだ熱いミルクティを手に、階段を上る。  屋上へと続く扉を開けると、途端に身体を刺すような冷気が吹きこんでくる。  その凛とした冷たい空気に、思わず一瞬瞳を閉じてから、私は小さく声をあげた。  何時の間にか、『海』に雪が降っていた。  くるくる、くるくる、音もなく舞い降りる、無数の氷の結晶達。  見上げた灰色の夜天から降りてくる雪の粒子は、いつもよりも妙に鮮明に瞳に映り、 まるでひらひらと舞い散る白い花弁のよう。  一番永い夜に、贈り物のように降りてきた雪に、嬉しくて一瞬我を忘れそうになる。

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