鳥は鳥に 〜Royal milk tea〜 / page7


「見えたの、ですか?」  鳥の行方に心を奪われていた私の様子に気付いて、そっと助教授さんが声をかけた。  この研究所の中で助教授さんだけには、こっそりと打ち明けたことがある。  私が、時々鳥の中に、人の姿が見えてしまうということを。 「……真白い衣に翼を纏った、すごく綺麗な子。深くて強い、黒の瞳をしてた。」  私が助教授さんの声にやっと応えた時には、もう鳥は『海』を離れて、夜空の遠くへ と消えた後だった。  一言だけ呟いて、後は何も言うことができずに私はそっと助教授さんに寄り添った。  肩に、服を通じて微かに感じる助教授さんの体温に、少しだけ慰められる。  だけど同時に、この温かさは私のではなく助教授さんのもので。  やっぱり自分がひとりであることに変わりはないのだ、という漠然とした想いから、 ほのかな淋しさが生まれて私の背を撫でてゆく。 「一番永い冬至の夜には、世界の何処かで新しい春が、生まれるそうです。」  先程のくすくす笑いもすっかり消えて、俯いて黙ってしまった私に、ぽつりと助教授 さんが話を切り出した。   「春の子供が育つ度に、少しずつ夜は短くなってゆく。そうしていつしか成長して、春 は世界に満ちあふれて、花を咲かせ、新しい緑を育てる。」  私は、顔をあげて少しだけ助教授さんの横顔を見る。 「あの鳥は、やがてくる春を迎えにゆくために、冬至の夜に飛び立って旅を始める本能 を持っている。そう、知り合いの『旅人』から聞きました。」  助教授さんは、飛び立った鳥の行方を見上げて、楽しそうに、眩しそうに目を細めて いた。まるで、冬の満天の星空をはじめて見た、少年みたいに。  本当に、この人は鳥のことが好きなんだ、と思う。

←Prev  →Next

ノートブックに戻る