音もなく、細やかな雪は変わらず降り続ける。
ふわふわ、ふわふわと、その度にこの屋上や『海』の岩場、周囲の色を白く染めて。
だけど、私の瞳には、未だにその雪の白よりもくっきりと、あの鳥の翼の残像が、真
白く焼き付いていて、離れない。
「ねえ、助教授さん。」
「何ですか?」
「どうして、人と鳥は、別れてしまったんでしょうね。」
また顔を膝に預けて淋しさに揺らいだままで、鳥が好きな助教授さんへと、私は唐突
にこんな問いをぽつりと呟いてしまう。
あの真白い鳥の娘を見た時に想った、人と鳥の別れの夢想。
それを肯定して欲しいのか、否定して欲しいのか、自分でもわからないままに。
「……いつの日か、もう一度めぐり逢って、ひとつになるために。」
のんきな声で、私の問いに応えてくれた、言葉。
思いもよらなかったそんな言葉に、私は驚いて思わず顔をあげた。
「その日まで、人も鳥も、永い旅を続けている、それが僕の学説なんですけどね。」
少し照れくさそうに頭をかきながら、銀縁の眼鏡の奥で優しく微笑む助教授さん。
本当にずっとそう想っているのか、それとも理由もなしに沈んでしまった私を慰める
ためにそう言ってくれたのかは、ちょっとわからないけれど。
それでも、凍った心の芯がふんわりと暖まって、ほっと溶けてゆくのを、感じる。
まるで、熱くてほんのりと甘い、ロイヤル・ミルクティを飲んだ時みたいに。
「そっか……。きっと、そうですよね。」
ぽつりと言い聞かせるように呟いてから、こっそりと、助教授さんのミルクティを一
口だけ飲む。少しぬるくなった紅茶の優しい甘さが、身体の内に広がって。
やっと、私は助教授さんに微笑みを返すことが、できた。
助教授さんの素敵な学説を信じてみるのも、悪くないと想って。
だって今夜は、一番永くて、新しい春が生まれる、冬至祭の夜なのだから。
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