nector / page1


 十二月の夕闇の空気は、りん、りんと、静かな音のない音に包まれていました。  今夜は、一年でいちばん永い、いちばん静かな夜。  青年は、夜の空気と海との境目に座って、そのはじまりを待っていました。  薄い翠色の煙草に、小さな橙色の灯を燈しながら。  (もう、そろそろ、かな。)  青年は、灰青色の空を見上げてつぶやきました。  オリオン座やシリウスが織り込まれた、澄んだ群青色のタペストリのような冬の夜天。  晴れていればどこまでも遠く見えるその空を、今日は薄い雲が幾重にも霧のように覆い隠していました。  足元には、寄せては返す、絶え間なく繰り返す海のいとなみ。  その波の音だけが、ずっと変わらないリズムで、青年の耳に届いてきます。  青年には、一日のうちで一番大変な仕事がまだ残っていました。  それは、ひとつだけど、数え切れないほどたくさんのものを贈り届ける仕事でした。  岩場から立ち上がって、くわえた煙草を消そうとした、ちょうどその時のこと。  「こんばんは。」  「こんばんは。」  どこから来たのか、何時の間にか青年の目の前に二人の女の子が立っていました。

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danro