書名:散華(上)紫式部の生涯
著者:杉本苑子
発行所:中央公論社
発行年月日:1991/4/15
定価:1602円+税
書名:散華(下)紫式部の生涯
著者:杉本苑子
発行所:中央公論社
発行年月日:1991/4/15
定価:1602円+税
源氏物語の作者紫式部の生涯を描いた作品です。播磨の国の国司の娘として生まれて、母の死後京都に戻って過ごした子供時代。藤原絶頂の時代、同じ藤原氏の生まれではあるけれど主流派の乗れたり、乗れなくて失意の時代を過ごす父、伯父、親戚、一族が誰が権力者になるかによって右往左往する様など平安貴族の生活の本音の部分がとても面白い。少女のころに清少納言とあったり、清少納言の逸話、和泉式部との友達づきあい。「蜻蛉日記」作家との出会いとか?藤原道長が五男の生まれて嫡子になって空前の権力持った過程、道長の娘彰子の侍女として宮中に上がる前から理想の男性として光源氏を主人公にした物語を書き始めて、宮中で全54帖を書き上げて、宮中を下がってくるいきさつなどなかなか興味深い。もっとも源氏物語を読んでいることを前提に書かれている部分もあって、読んでいないとないとちょっと難解なところもある。これは枕草子なども何気なく出て来る。いろいろな本でも清少納言ほど悪く言われている人もいない気がする。以外と正直なのかな。
杉本苑子の中で出来た紫式部もまた良い。紫式部をこれだけ書ける作家はなかなかいないような気がする。また平安貴族の和歌のやりとりなどなかなかおつなものですね。相当な教養がないと何のことか判らない。何気ない易しい歌に実は深い深い心があったりして?やっぱりぎすぎすせずに余裕、寛容のある時代を感じる。
「匠の、もの食うこそいとあやしけれ」
出された食器の中身を大工たちが、まんべんなく賞味していてゆこうとせずに汁には汁、飯は飯、菜は菜だけ食べてしまうのを「卑しく、あさましい」清少納言は嗤っているのである。
恋ひわびてあり経るほどの初雪は
消えぬるかとぞ疑ほれける(彰子)
経ればかく憂さのみまさる世を執し
荒れたる庭に積もる白雪(紫式部)