書名:龍馬史
著者:磯田 道史
発行所:文藝春秋
発行年月日:2010/9/30
ページ:222頁
定価:1333円+税
坂本龍馬が司馬遼太郎の「竜馬が行く」によって広く知られるようになったが、幕末明治維新当時には殆ど知られなかった人です。明治16年に土佐出身の新聞記者坂崎 紫瀾(さかざき しらん)が「汗血千里駒」竜馬の伝記を『土陽新聞』を連載したことによって少しは知られるようになる。その後勝海舟の「氷川清話」明治30年代に出版などにも出てくる。しかし司馬遼太郎が言うように維新の立役者だったかどうか?司馬遼太郎の誇張した表現に竜馬像が歪んでいるのかもしれない。
この本は龍馬の手紙を全て読んで、龍馬の視点から幕末、維新の動きを分かりやすく説明している本です。ちょっとミステリー風に坂本龍馬を斬ったのは誰か? 黒幕は誰か? 新撰組か紀州藩か、はたまた薩摩藩か? 様々な説が唱えられてきました。その謎に、史料の丹念な解読と推理によって磯田氏独自の視点で挑んでいる意欲作です。
結論から言うと
京都守護職・松平容保→会津藩公用人・手代木直右衛門→京都見廻組・佐々木只三郎→実行者佐々木以下六名・・・この時佐々木只三郎はこの襲撃グループのリーダーだったので自らは手を下していない。(佐々木只三郎は清河八郎を暗殺した人)
なんの因縁か「幕末動乱の舞台は清河八郎が幕を開け、坂本龍馬が閉じた」と言われることがあるが、清河と坂本の2人とも佐々木只三郎が関係している。もう少し探ってみたいところです。
大政奉還、薩長同盟が坂本龍馬の功績と司馬遼太郎などは強調しているが、脱藩1浪人の意見・提案で薩長が動いたか?幕府・公家が動いたか?ちょっと考えるとみえてくるのではないか?磯田氏は龍馬の凄いところは亀山社中の結成(長崎を舞台にして武器を調達・販売)して長州のために薩摩の名前で新式銃を手配したこと。また海援隊という海軍を作って長州と幕府の戦いに参加して長州に勝ちをもたらしたこと。
以外としられていないことが龍馬は下士の出身だから貧乏浪人と思っていたが、実は土佐でも豪商の部類に入る才谷屋から、何代か前に分家し、郷士株を買った坂本家の出身で上士よりも裕福だった。
幕末の志士など以外と貧乏浪人ではなく、身分は低いかもしれないけれど裕福な農家の子息など出身者が多いようだ。世の中の矛盾に気がついてこれではいけないと行動を起こすのは裕福などら息子。いつの時代でも同じか?貧乏に疲弊をしている人々は立ち上がれない。
磯田氏は近世の歴史の専門家、この本も古文書を一次史料として説得ある論説で読んでいて知的興味をそそられる。なかなか面白い本です。これでまた龍馬の違った面がいろいろとみえてくると思う。