本多劇場 8/30〜9/7
8/6(土)観劇。座席 D-6
今回鈴木聡が選んだ舞台はラスベガスに向かう飛行機。出発前のロビーから始まるが、このシーンであっさり登場人物を紹介してしまう手法は、なかなかわかりやすくていい。登場人物の少なさを不況に結びつけてしまうのも自然。その不況をより展開するように、休職中のパイロットを登場(声のみ)させたりして、おかしさを増殖させている。飛行機に乗り込むのは、腐敗議員、その議員から金を巻き上げようとしているカップル、20年間不倫を続けているカップルや、やり直そうとしているカップル、ランパブの女性とお客などそれぞれ何かを抱えた人間ばかり。その人生模様や思惑が次第に表面化していくが、そこはラッパ屋独特の明るい雰囲気で、暗くならず軽快にストーリーが進む。最後にはお金に関する話になってしまい「マネー」を思いだしてしまうが、話は全然違うので、こんな事思うのは自分だけだと思う。
題名から考えてパニックものかとも思っていたが、違った。こういう予想ハズレは観る立場においてはちょっとうれしく思う。それに反して登場人物のキャラクターはいつもと変わらず期待ハズレ。それはそれで面白いのだが、新鮮味がなくマンネリ化を感じる。たまにはいい意味での裏切りも欲しいものだと思う。
“ラッパ屋”自分が観た公演ベスト
1.サクラパパオー 2.凄い金魚 3.マネー 4.エアポート'97 5.裸天国 6.鰻の出前
宮藤官九郎作・演出のウーマン・リブの2作目。
どんまいハウスというアパートに住み着く、変な住人達の話。物語はどんまいハウスの主人で記憶を失っているトクさん(飯田孝男)と行方不明だった妻ミズエ(新井亜樹)の話を主軸に進行する。二人の過去を挿入しつつ、何故記憶を失ったのか、何故妻は行方不明になったかが、ぼんやりと見えてくる。その話とは別にアパートの住人カリモト(阿部サダヲ)の元へ、雨でずぶねれになった女アサコ(猫背椿)が訪れ、狂気の世界が展開していく。宮藤官九郎の作は、今まで正直言って面白いとはいいがたい作品ばかりだったが(部分部分は面白いところもあるのだが)今回の作品は、ちょっと中だるみはあるものの満足の出来る作品になっていたと思う。悲劇度も昔の大人計画の作品を見るような気持ち良さがあった。アサコがカリモトを追う理由など深くないのにどん底まで落とす、そんな感じがとてもいい。役者の演技もよく、特に阿部サダヲは、いい味を出していた。
余談になるが、アサコとカリモトが血を流しながらデートをする場所の映像は「荒川遊園」で撮影されたもの。豊島園とか後楽園とかではなく、入園料130円の区営遊園地でのデートというのが哀愁をかもしだす。でも、これは予算の関係で、ここでの撮影になったのかもしれない。
ハイレグ・ジーザス総代河原雅彦のプロデュース公演。演劇村への報復と銘打ち演劇的なものに対する挑戦を試みた作品。今まで面白い事をしているにもかかわらず、面白くなかったハイレグだったが、初めて面白いと思える。河原の演劇に対する思いが気落ち悪く伝わり、とてもいい公演だった。
ストーリーは特になく演劇的なもののショート集という感じだが、ハイレグの本公演と違う一貫した流れが見える。出演者もオッホの中山祐一朗・ジョビジョバの坂田聡・東京オレンジの対馬よう子・オハヨウのムスメの加藤直美など個性豊な役者をそろえている。それら役者がハイレグの毒気を浴び、狂った演技を見せている。なかでも光っていた(狂っていた)のが、加藤直美。ハイレグの岸潤一郎の生チ◯◯を握り、ひぱっるという行動にでる。今までなんか無意味だったハイレグの生チ◯◯が、やっと意味を持ち、加藤直美の手により、とてもイヤラシク淫眉なものになり、昇華していた。ハイレグの公演を初めて見た観客からは「え、えぇぇぇ」という訳のわからない雄叫びが漏れていたのも又楽し。このシーンのあと対馬よう子が「なんなんじゃ〜これは〜!東京オレンジに帰る〜!堺さ〜ん!」と叫びながら乱入してくる場面は特に笑えた。
内輪受けというか楽屋落ち的な話しが多々あったが、演劇好きなら笑える場面が多く、満足できた。そんな点も客に対する挑戦なのかもしれない。
“HIGHLEG JESUS”自分が観た公演ベスト
1.隷族08 2.桃色慢遊 3.若くして死ぬしかない
30分程の話を3本立てにし、その3話をおおう世界を展開したというこの舞台は"ごあいさつ"で小池竹見が書いているように、「とにかくめいっぱい詰め込む」というコンセプト通りの作品になっていた。しかし、前作のひどさから比べると断然いい出来だが、物足りなさも少々感じる。物語は、自分を4歳と思い込み、その世界にくるまって生きている22歳のトモコ(間瀬とも子)と透明になってしまったカオル(明星真由美)の会話が全体を包み進行していく。
第1話「笛吹き男」(主演:柏原直人)は、ある世界から逃亡し、別の世界に留まろうとする男と、男が現れた事で葛藤する家族の話。何が嘘で何が本当なのか、何が現実で何が虚構なのか、揺れ動く中で家族は崩壊の道をたどる。
第2話「コサックフル」(主演:佐藤拓之)は、「何でもできる男」の葛藤を描く。何でもできる男とは、何にでも答えて行動ができる男であり、その為自分の意志ではなく、他人の声のままに行動するようになってしまう。影の声に操られ自己崩壊していく姿は滑稽でもあるが、非常に悲しくもあった。この話にはマスメディアの情報操作に対する批判や多重人格症の悲劇が、みごとに表現されていたと思うが、他人の思い通りになる状態がおかしいだけで作られていたらちょっと悲しい。笑いと恐怖がいい具合に調和していたこの作品が、3話中一番よく、この作品だけでも観る価値が充分あったと思う。
第3話「異教へのいざない」(主演:五味祐司)は、とある王国の王宮で透明になれる服を着せられる王様の話。しかし、本当に透明になる訳はなく、国中の人間に見えないと思いこませるだけであり、そこに何か深いものを感じる。個人の存在を否定してしまう恐怖が見てとれた。いじめられっ子だった五味が演じるだけに悲しさも一際。
共通して登場するのが仕立て屋や、透明人間、成長や逃避を示唆する梯子。でも、そのキーワードの意味はぼんやりと見えるだけで、正直言ってわからなかった。自分の感性不足なのだろうか?3話を通しての何か重要なものを見落としているのだろうか。なんかとても悔しい。
“双数姉妹”自分が観た公演ベスト
1.ハクチカ'97 2.3 BALKAN BOYS 3.SHOCKER
昭和初期の遊里、吉原の遊廓「橘屋」。そこに年期奉公として売られてきた田舎娘3人を中心に吉原に住み着く人間達の姿を描いた作品。題名の「忘八」とは遊廓に雇われた男衆の事。その忘八の一人清二を演じるのは赤星昇一郎。清二は人間としての心を忘れ、忘八の職業をまっとうしていた。そこに現れた田舎娘の一人、ハナによって、心を乱し人間らしさを蘇らせていった。ハナに対しては妹を見るように優しい目をする清二だが、店のしきたり、忘八としての役目には逆らえず、ハナを女郎にしてしまうという女将には逆らえなかった。しかし最後には自分の思いをぶつけハナを幼なじみと駆け落ちさせる。そんな自由に恋愛できない時代の悲哀がうまく表現されていた。休憩10分をはさんで2時間半は飽きる事はなかったが、正直言って長く感じた。もう少し省けるところがあったと思う。それはさて置き、赤星がいい。怪物ランドの赤星しかしらない私にとってはちょっと衝撃であった。あとハナを演じた平井奈津子もよかった。今回は新劇がかった芝居だったが、新劇くさい演技をぶっ壊す演出家との出会いを期待したい。
期待してなかった舞台だが、期待に反して面白い舞台であった。舞台背景である遊廓の事もあまり知らなかったし、忘八なんてものは、その名すら知らなかった。それだけに興味持って観れたのがよかったのかもしれない。ただ、劇中に流れる「ラバンバ」や「スタンド・バイ・ミイ」はいただけない。選曲をもっと考えて欲しかった。
vol.1かと思ったがvol.0の今公演は、明星真由美のワンマンショーかと思って観に行った私の期待を大いに裏切った。しかし、そのお遊び感覚は本公演とは違った面白さがあった。本公演を観てないとわからないおかしさや、ゲストで来た劇団の事を知らないと笑えないところも多々あったが、肩を張らずに笑えたのでいい。五味の登場を減らしもっと明星の出番が多いとよかったが、明星の存在感は特別なものがあるのでまぁよしとしよう。ただ初めのおかしさが最後まで持続していなかったのはいただけない。こんなんでは週刊なんてのはもってのほかと言わざるを得ない。まっ、次回公演予定は10月20日頃との事で、はなっから週刊になってなかったりするのだが。
ゲストの劇団は東京オレンジ、カムカムミニキーナ、猫のホテル、拙者ムニエル。中でも東京オレンジの堺雅人はよかった。双数の役者が霞んでみえるほど。以前見た時は、人気ほどよくないじゃないかぁという印象だったが、今回の堺はいい。でも、東京オレンジを観に行こうとは思わない。
題目は、
・プリンス×プリンス
・ふしめがち
・ぴったしカンカン
・お明
・五味トークショー
・前後に明星の歌謡ショーといった感じのメニュー。
中で気に入ったのが、一番目の「プリンス×プリンス」。プリンス役に東京オレンジの堺雅人と双数姉妹の柏原直人が扮し、二人が死の床にある王の元へ向かう話。その二人の行動を示唆するのが本公演の仕立て屋の二人という図式。本公演のネタをそのまま使ったと言えばそれまでなんですが・・・でっ、後は内輪ネタのオンパレードといった感じで1時間30分。