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特別公演レポート

2003.3.24 月曜日





「もう 待ちくたびれた〜」

という感じすらあった映画「なごり雪」のスクリーンコンサートに行ってきた。
本来なら昨年中には開催されていなくてはならなかったスクリーンコンサートであったが会場の都合とか、大林監督のスケジュール等で今日まで延び延びとなっていた訳だが 名称もスクリーンコンサートから「特別公演」と新たに今回、開催となったのだ。(ただ名称が変わった事に従い、公演内容も大幅に変更になってしまい大林監督と共にもうひとりの主役である伊勢正三さんの名前が出演者リストに無いのは気に掛かる事であったのだが)

私を含め、大林監督のファンクラヴOBs Club東海支部からは支部長さんをはじめ6人が参加。
みんな長い間待たされただけあって本公演に対する期待感はいやが上にも高まっていた。やがて定時の開演のアナウンスと共にステージに現れたのは今回の出演者リストに大林監督と共に唯一、名を連ねていたOKAMA NO kEN with スーパーホモンキーズ改めPink・フラミンゴの面々。
リーダーのおかまのケンちゃんは地元TVやラジオでかねてから有名で私も契約しているCATVで映画番組を担当しているだけに馴染みは深い。また彼らは1年ほど前に「SHA-CHI-HO-KO」という映画を制作し公開してもいるのだ。
それにその映画を持って昨年の「ゆうばり国際ファンタ映画祭」にも参加。同じ「なごり雪」で参加していた大林監督一行と知り合ったという経緯がある。だからこそ今回の特別公演の参加へと繋がったのだろう。

ステージ上では当然の如く、それら経緯も話されたり「なごり雪」ということで 「私達にも雪の歌があります」と紹介されて披露されたのが「Snow Light Love」という曲だった。
ほぼケンちゃんがメインボーカル、他の3人のメンバーがダンスという感じであったが 全身、白の衣装にはぴったりな曲であった。
その後は「なごり雪」から「初恋」談義〜「恋愛」話に進み『好きになったらどのように告白するか』という話題でひとしきり盛り上がる。
でも 彼らの恋愛対象は あくまでも””。イケメン系なのにもったいないと思ったのは私だけではあるまい。

話も一段落とした処で、ケンちゃんのまとめの言葉と共に場内は暗転。映画「なごり雪」が始まった。


私にとって映画は今回で、東京での舞台挨拶、名古屋での公開初日に続いて3回目となるのだが今回が最も落ち着いて見る事が出来たと言っても言い過ぎではない。
映画についての感想はココを参照して貰いたいが最初は抵抗もあった「なごり雪」の歌詞通りのセリフやらラストのベンガルさんの号泣もさほど気にならなくなっていたのはそのいい証拠でもある。
今回もPink・フラミンゴ目当てのファン以外は年齢層の高い客席であったが 比較的主人公達と同世代の彼らが映画を見てどう感じたか聞いてみたい、私はそんな気がした。
映画が終わると同時に拍手が起こり やがてステージの暗がりから中央に歩み出てきたのは誰あらう大林宣彦監督、その人であった。
先程からの拍手はスポットライトが遅れて当たりその姿がはっきりしたあたりから 一段と大きくなっていく。
それと同じくしてステージ上に現れた花束を持った一人の少女にもスポットライトが当たる。監督の紹介によると彼女も監督同様、ピアノを弾くのだという。
その縁があってかプレゼンターに選ばれたのだろう。監督に花束を渡し、彼女も拍手の中、ステージを捌けていった。

そして ここからはいつもながらの大林監督のトーク。
もちろん中心は「なごり雪」の話題である。自身の幼少期の映画との出会い〜 自宅の蔵にあった活動大写真機で遊び、やがてフィルムを切り繋いでアニメーションを制作した〜という話から特別公演のもう一人の主役”ピアノ”との出会いなど色々な方面へと広がっていく。

「さて 私の(実家の)納戸の中にはもうひとつ、このピアノというものがありました」と語った監督はピアノの前に立つ。


「このピアノというのが不思議なものでしてね。ここにあるのはグランドピアノですけど箱形のピアノが蔵の中にあったんです。
ところがそのピアノをね、指で押さえましてもね音がしないんですよ。
キッ、キッと鍵盤の擦れる音がしまして....なんだかよく判らないんです。子供心に見ると、白い積木と黒い積木でしょ。これが取れればこれを使って色々遊ぶ事が出来るのにいくらやっても取れないですし、音も出ない。
実はその頃、戦争中でしてね。このピアノの弦が鉄でしたので”供出”と言って国に貸し出されて飛行機や戦車になって戦っていたんですね。だから我家のピアノは音が出なかったんです。
ところがそのピアノが戦争が終わり私の処に戻ってきた時
『宣彦や ピアノを弾いてごらん』と言われて
何の事か判らず言われるままに .........」
と実際に目の前の鍵盤を押す監督。


「音がするんですよね。ああ これは音の積木なんだ。
この音を自分で好きなように積み重ねていく音の広がりというものは面白いと思いましたね。
その時、私はやっぱり戦争で物が壊れたり人が亡くなっていく恐ろしい音よりもね このピアノが醸し出す音。これこそ平和の音だなと思いましたね。」



その間にもステージ後方では楽器のセッティングをしている様子が目に入ってくる。どうもアコースティック・ギター2台にベースが並べられているようだ。
おまけにそのアコースティック・ギターのうち1台はOvationのようである。
使用機材も違ううえ(伊勢氏はマーチンD-45を愛用)まさか伊勢正三氏がバンドでサプライズゲストということはないだろうがこの準備風景を見て私は隣の支部長さんに「伊勢さんがゲスト?」と尋ねた程であった。

監督のお話も映画から、4日前、遂に始まってしまったイラク戦争の話へと及んでいく。個人的にもこの戦争について大林監督がどのようなコメントをするのか 注目していただけに監督の言葉を一言も聞き逃さないよう耳を集中する。


「その「なごり雪」を撮影していたのが ちょうど一昨年になりますが、 撮影二日目がね。忘れもしません。9月11日。
撮影が終わってホテルの部屋に入りポンとTVを付けましたら映画でもお馴染みのね、あの有名なNYの貿易センタービルに航空機が突っ込んで、恐ろしい映像でした。
あの映像を見た時、私は大分県のこの様な小さな町で『春になって君は綺麗になった』というような映画を撮っている事が果たして意味があるのだろうか ? 許される事だろうか ?とても無力感を感じました。
今すぐアメリカに飛んでいき『僕たちが物が壊れたり、人が死んだりする映画を作り続けてきたから自分たちのこういう映像を作ってしまったんだ。もし僕たちが穏やかな映画を作り続けていたらテロリスト達もこんな恐ろしい映像は作らなかったかもしれない。』と仲間の偉い人達にそういう話をする事の方が映画作家としては意味がある事だと思ったんですけどね。でも私はやっぱり映画を作るだけですから......」



「人類が一番美しい時に聴くと音楽になるのだろう。
人類が語る言葉が穏やかな時に歌になるのだろう。
そういう美しい歌や平和を人間の技で映画によって行っていれば、こういう恐ろしい映像を防ぐ力になるのではないか。そう思いましてね。この映画(「なごり雪」)を作り続けてきました。」



とテロで世界が揺れている中、あえて現場で映画に拘った意味を監督は語られた。
そして


「どんな理由があっても、この音が戦争の音に変わるような事があってはならない。
どんな理由があっても、美しい音を失うような事をしてはいけない。
今もまた このピアノの音がかき消されようとしています。
そういう時だからね、私達は思いを強くしなければならない。」



と監督の言葉はいつになく雄弁に聞こえた。
また唐突に

「ジョンレノンの「イマジン」という歌がありますね。....」

とジョン・レノンの代表曲の事を監督が話し始めたので個人的には非常に驚いてしまった。「イマジン」と言えば、この9.11のテロ〜アフガニスタンでの攻撃の間、全世界的に聞かれた”反戦歌の象徴”のような曲である。
それに「イマジン」と言えばピアノ弾き語りの曲としても名高い名曲。
もしや監督がこの曲を弾くのでは ?と期待してしまったが、さすがにそれには至らなかったのは残念であった。そんな思わせぶりな発言もありつつ 


「私は子供の頃、映画とそして、このピアノに出会った。 良かったなと今、感謝をしております。」

「私には音楽の素養はありませんが...」

とピアノの前に座り いよいよ音を紡ぎ始めた。
最初は小さく一音一音ポロポロと音色を奏でて正直なところ、私には何の曲か判り辛かったが次第にお馴染みのメロディラインが耳を捉えると ようやくこれが「なごり雪」であることが判る。と言っても監督なりにコードに装飾音を付加し メロディを弾く右手はスケール(音階)を奏でてかなり原曲を崩して伊勢さんのギター一本の「なごり雪」とはかなり趣は異にしている。
それはオリジナルよりも音の広がりを感じる程なのだ。まさにこれこそが大林流ピアノと言えるだろう。
感動的なエンディングと共に終わった演奏に我々観客も大きな拍手で賛辞を送った。 拍手が収まると監督が再びマイクをとり「なごり雪」について語られたが ふぃに

「今日は主人公、祐作の若い時を演じました細山田隆人くんをご紹介します。細山田くん」

と呼ばれ舞台袖から「ハイ」とはっきりと響き渡る返事と共に細山田さんが現れた時はこれまた、驚いた。
サプライズ・ゲストは細山田さんだったのか!
大きな拍手と共に現れた細山田さんとは「なごり雪」の東京での舞台挨拶以来2度目なのだが前回よりもずっと落ち着いているように見える。あの時は声も震え気味であったのに今回はそんなものを微塵も感じさせない。あれから半年も時は経っていないが色々成長されたのだろう。
その細山田さんと監督のお話は細山田さんの「なごり雪」以降の近況、この仕事(俳優)を始めたきっかけ(なんと4歳とのこと)なども話されたが やはり話の中心は「なごり雪」撮影時での苦労話などへ自然と移っていく。
特に「なごり雪」では昔の言葉使いを徹底した為、撮影前に念入りに発声練習されたらしく大変さは伺われたが、それでも十分でなかったので撮影現場でも よく演劇部が練習するように同年代の共演者同士(須藤温子さんや反田孝幸さんらか ?)で「あえいうえおあお」と発声練習していたという事も話され現場での必死さが伺えた。
また舞台挨拶の時でも話されたが「なごり雪」の話を貰った時、あまりの大変さに 最初は”逃げちゃおうか”と思っていたが よく考えてがんばってやっていこうと思って撮影に臨んだと若者らしい率直な意見を述べられて観客にも非常に好印象だったに違いない。
また監督から「なごり雪」で28年前の、いわば同世代の主人公を演じてみてどうだったかという問いには


「やっぱり、今までやってきた映画と違う感じはありましたね」
と述べ監督からこれからどういう俳優になっていくという質問に


「今は高校三年生でまだ学生なのですが、この仕事も4歳から始めまして小学5年生、6年生ぐらいにはこの仕事をやっていて楽しいと思えるようになりました。
その頃から将来もこの様にやっていけたらいいな。と自然と考えも生まれましたのでこれからも学業も頑張っていくつもりですが、俳優の方も頑張って将来も監督に使ってもらえるような役者になりたいと思っております。
今日は(みなさん)見に来て頂きありがとうございました。」



とまとめられて場内は拍手となった。
(ぜひ 細山田さんにはまた大林映画に帰ってきてもらいたいものです。)





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SET LIST
1Snow Light Love (Pink・フラミンゴ)
2映画「なごり雪」上映
3なごり雪 (Piano : 大林監督)
4なごり雪(ストロー)
5さよならも言えなくて(ストロー)
6泣く前(大林監督、細山田隆人、ストロー)
7なごり雪
(大林監督、細山田隆人、ストロー、Pink・フラミンゴ、長沢純)    
・・・Encore ・・・
8ため息 〜 蛍の光 (Piano : 大林監督)