僕が子供の頃から連載されていて、今でも好きなマンガが「ドラえもん」です。 “お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの” これは、のび太が持っていたおもちゃを、ジャイアンが取り上げようとしたとき、のび太の「これは僕のだよう」という弱々しいセリフの後に、ジャイアンが発した言葉です。 これほどまでに、自分勝手という四文字熟語を、最もわかりやすく言い換えた言葉は、他にないでしょう。つまり、他人のものも自分のものも、全て自分が手に入れる、言ってみれば独裁者的思考ですが、それをジャイアンが吐くことによって、偉大なる “だだっこ”フレーズとして、君臨することになるのです。 このジャイアンの滅茶苦茶な理論ですが、あまりにメチャクチャすぎるために、それを疑いもなく発しているジャイアンには、ちょっとした尊敬の念まで芽生えてきて、のちには、ジワジワとした笑いが、こみ上げてきてしまいます。 僕の主張は、“みなさん、ジャイアンのこの理論を、どんどん使おうじゃありませんか”です。ただし、みんな自分勝手になれというのではありません。もちろんその全く反対です。 “お前の幸せは俺の幸せ、俺の幸せは俺の幸せ” さらにやわらかい表現にするために、“俺”を“私”に、“おまえ”を“あなた”に置き換えてみてください。 “あなたの幸せは私の幸せ、私の幸せは私の幸せ” どうですか。このフレーズの前半部分は、とっても平和で温かい表現ですね。 自分が嬉しかった時、自分が楽しかったとき、それを素直に出して、表現するということを、最近の日本人は積極的にはしません。昔なら「そうすることが美徳だから」と言えたでしょうが、今は、そういう理由で、自分の喜びを外に出さないわけではないように感じます。 一瞬、楽しいと思っても、それが、周りの人にとっても楽しいことなのか、そうでないのかがわからないから、喜びを表現しようと思っても、それをせずに止(や)めてしまうのです。これは、自信のなさというよりも、根底には「みんなと同じでなきゃいけない」という心理が大きく影響しているからだと思います。 人間が幸せになるには、まず、ひとを思いやる心、これが“あなたの幸せは私の幸せ”です。そして、もっと大事なのは、自分自身の幸せを自分が心から喜べることです。これが“私の幸せは私の幸せ”なのだと思います。 1997.9.12 |