ドメイン名の自由と秩序

去年の11月にこの欄でcomドメインがなんでクールなんだという話を書きました。このときの話題は、マイクロソフトネット(MSN)が当時、msn.comドメインでかっこいい電子メールアドレスをゲットしようという宣伝をしていたので、comドメインはいいけど短かければ覚えやすいってもんでもないよと書いたわけです。しかし、世界的にも、ドメイン名を勝手に短くして覚えやすくしようという考えが広がっているようです。

8月6日付けのHotWiredニュースによると、分かりやすいURLを使えるサービスというのが、普及し始めているということです。この分かりやすいURLというのは、どんなもんかというと、http://i.am/yamadaとか、http://hello.to/suzukiみたいなもののことをいいます。つまり、英語圏の人から見れば、http://わたしは/山田とか、http://よろしく/鈴木みたいに読めるURLですね。日常会話で使う言葉みたいな名前だから、http://www.biglobe.ne.jp/~shellよりは覚えてもらえるでしょうということらしい。もちろん、スペイン語を使う人のためには、pagina.deみたいなURLも用意されているとのこと。URLはWebサーバーなどにあるデータの場所を特定するアドレスのことですが、URLのサーバー名の部分(www2s.biglobe.ne.jpなど)は、世界的な統一規格であるドメイン名システム(DNS)で管理されています。それにしても、ドメイン名は、だいたい国別に末尾が決まっているのに、どうやって、i.amみたいな名前が作れるのでしょうか。

実は、これらのドメイン名は、世界各地の使えそうな国のドメイン名を組み合わせて作られています。たとえば、i.amドメインのamはアルメニアで使われているものですし、hello.toドメインのtoはトンガに対応しています。同様にdeはドイツです。分かりやすいURLを提供している人は、これらの国で、ドメイン名iとかhelloを申請して取得したのですね。そのあとで、そのドメインに対応するIPアドレスをもつサーバーを立ち上げて、そのサーバーのsuzukiやyamadaというディレクトリに送られて来るhttp信号を、そのまま契約者の本当のURLに転送するわけです。アクセスした人に戻る信号は、本来のサーバーから直接に送られることでしょう。もちろん、同様の事を考える人はいくらでもいるわけで、こうしたドメインを売って商売にしているところもあるようです。こうしたサービスに対する意見は当然わかれます。一方は、分かりやすいURLが使えるに越したことはないと言うし、一方は、国情報を含むドメイン名の意味がなくなると反論するでしょう。ドメイン名の中の国情報という概念に疎いアメリカ人などは、hello.toなんてかっこいいと思うんだろうな。

しかし、こうした分かりやすいURL(と言っても英語圏とスペイン語圏だけじゃん)というのは、国ごとのドメイン管理基準の違いをついたものであって、あくまで本来の使い方でないのは確かです。例えば、この話でも、toドメインであるトンガは、金さえ払えば世界のどこにいても、これを取得することができます。むしろ、関係者はdeドメインであるドイツが、こうした用途のためにドメインを与えたことに驚いているとか。私が思うに、やっぱり基本は、その国に存在するサイトが、その国のドメイン名を使うべきなのです。では、日本でもcomドメインを使ってサイトがあるのはどうしてなんだと思う人もいるでしょうね。こうしたサイトは、二つのパターンに分かれると思います。一つは、本社がアメリカにある多国籍企業で、本社のドメインをトップドメインとして管理しているから、日本にサーバー本体があってもcomを使っているパターン。もう一つは、直接アメリカのドメイン管理会社に申請して、comドメインを取得した場合です。実際のところ、comドメイン自体には国情報は含まれていないので、日本で使っていても問題にはならないのです。現に、最近では、comドメインなどは申請者の29%がアメリカ以外から来ていると言うことです。

それなら、主に国情報のないドメイン名を使っているアメリカは、一番いい加減ではないかという話になりますが、そのアメリカでも、国外の企業までcomドメインを使うようになってきたからか、この先usドメインも有効に使うようにしないかという話が出ています。この場合は、アメリカに存在するサイトしか使えないので、すきな名前がとれないという問題は減るだろうということ。しかし、一方で、自分の名前が関係ない企業にとられてしまっていたり、それを高い金を払って譲ってもらうような現象が起きていますし、ドメインの売買やリースが商売になる世界ですから、システムを変えたところで混乱は続くと見たほうが良いと思いますね。それにしても、インターネットが主として研究機関を結ぶネットワークであったころは、互いにRFCという文書で合意をしながら運用してきたわけですが、それが商用のネットワークに変化してから、どうも、そのいい加減なところを突いた変な商売が発生して、本来の紳士的な合意に基づく運用ができなくなっているのではないでしょうか。

便利ならそれでいいという考えに乗るのもいいでしょうね。10数文字のドメインよりも、i.amドメインの方が覚えてもらえるもん。でも、それじゃ、ドメインの存在する国を、ISO-3166にしたがった二文字で表すって合意はどうなるのかな。俺は、そんなもの使わないけど、君はそう信じて使えばっていう発想は混乱の元だと思うんですが。ドメイン名の付け方は、世界標準で決まっているわけではないですが、混乱を避けるためにメモ(RFC1591)としてまとめられているのです。このなかには、アメリカで使われている、7つのトップレベルドメイン(edu, com, net, org, gov, mil, と int)のなかで、govmilは合衆国政府で使うが、あとはアメリカ以外で使えるということや、国コードはISO-3166にしたがって末尾につけることも書かれています。これを読めば、ドメイン名の本来の目的が、勝手に名前を付けることによる混乱を避けるために、階層構造にしようという発想であることが分かるはずです。それを、ちょいと使い方を変えて分かりやすいURLを作ってしまおうという動きは、確かに便利だけど、ちょっと世界全体や将来を考えてないんじゃないのと思うんですが。考えが保守的でしょうか。

1998.08.14
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