言葉に注意せねば

先週(2000年9月第5週)から今週にかけて、インターネットのいくつかのホームページから、ある言葉が消えたはずです。実は、このサイトにあった同じ言葉も消去しました。理由は、その言葉が商標として登録されていたからです。これからのインターネットでは、商売をする気持ちもない個人が運営するホームページにまで、こうしたIT(Information Technology)革命の火の粉が降りかかることになります。

今回の出来事は、9月26日に突然届いた、「登録商標・・・使用の警告」という題の電子メールから始まりました。このメールの内容は、このサイトの中で使われているある言葉が登録商標(登録第4251512号)の使用に該当し、商標権の侵害に該当するおそれがある、というものです。したがって、使用を中止するように警告するとのこと。メールの末尾にある連絡先は、在京の弁理士になっていましたが、メールそのものは、アメリカの東海岸から送られたようです。とりあえず、自分のサイトをその文字で検索すると、3つのページに該当する文字が入っていました。一つはこの頃欄のバックナンバーで、あとの2ページは目次です。該当するページはここですが、現在は、問題の文字は置き換えられています。商標であった文字は、表題の「ロボット・ペット」の場所に使われていたもので、私としては、このなかの「ット・」を省略して、映画のタイトルのロボコップとひっかけた積もりでした。見れば分かるように、これに続く文章の中には使われておらず。特定の商品を示している言葉ではありません。でも、警告されたらほうっておくわけにも行きません。まずは、メールの内容が本当かどうかを確かめに、登録商標を管轄している特許庁のホームページ[jpo]に行きました。

ここには、特許電子図書館[jpo]というページがあって、特許や、実用新案、意匠、商標などの登録情報をインターネットから検索できます。商標については、このページの「商標検索へ」の項目から、「商標出願、登録情報」をプルダウンメニューで選び、OKボタンをクリックします。すると検索ページにすすみますから、テキスト入力欄に左の検索項目に該当する文字列や番号を書き込み、「検索実行」をクリックすると、登録情報が表示されます。例えば、左のメニューに「登録番号」を選択して、右のテキストボックスに上に書いた4251512を書き込んで検索すれば、私が指摘された言葉がでるはずです。問題は、私がページを公開した日付と、出願日のどちらが先かというところですが、これによると、1996年の3月の日付になっていますね。私が書いたのが1998年の9月ですから、その二年も前に出願されていたことになります。ただ、登録されたのは、それより後の1999年ですね。1998年に私が文章を書いた時点では、ソニーのアイボも発売前でした。それが、アイボが発売されてからペット系のロボットおもちゃが次々にでて、一種のブームになったわけです。もしかして、あんなブームが起きなければ、この商標は登録されなかったかも知れません。

商標というのは、本来、商品を識別する名称が、勝手に他の人間に使われることで利益を損なわれるのを防ぐのが目的です。例えば、Aという名前のお菓子を売り出したら、それが大ヒットしたとします。しかし、すぐに全く同じ名前の類似品を、全く同じロゴで別のお菓子屋が売り出したら、先に売った店は大きな打撃を受けます。そういうことが起きないように、国がその名前を、先に登録した店が独占できるようにしているのですね。ただ、Aというお菓子に対して、同じAという車を売ったからといって、そのお菓子屋は打撃を受けるわけでもないので、実際は、その名称がどういう種類の商品に使うものかを細かく指定しています。上の電子図書館で、問題の名称だけで検索してみてください。他にも同じ名前で登録されている商標があるはずです。さっきのはおもちゃに対して付けられた名前であったのに対して、こちらは、金属加工機械などのロボットにつけるために登録されています。つまり、もしかしたら、工作機械メーカーから警告が来てもよかった。まぁ、私の書いた内容がおもちゃについてだったから、マークされたのだと思いますが。

では、私はこの警告にどのように対処したら良いのでしょう。まずは、この手の法律ねたに詳しそうな高木さん[asahi-net]に聞いてみました。お答えは、赤兵衛はおもちゃの販売をおこなっていないし、赤兵衛のサイトで使われた言葉も特定のおもちゃを示すものではないので商標とは言えない、したがって、商標権を侵害したことにはならない、というものでした。ついでに、相手は名前が一般化するのを恐れているのではないかというコメントをいただきました。そうこうしているうちに、再び弁理士から、継続してあの言葉を使用したい場合は有料の使用契約をとってくださいというメールが届きました。特許と同じで、商標も有料で貸し出すことが可能なのです。こっちは、たかがタイトルの言葉にお金を払う気持ちなど無いですから、メールの送信元に、「見ての通りのページなので、とても商標権をおかしているとは思えない、あれに商標法上の問題があるならば、詳しく理由を教えて欲しい」という趣旨のメールを返してみました。すると、翌日に回答が帰ってきました。

回答の要旨は、確かに赤兵衛のホームページでの使い方は、商標権侵害には該当しないので、法律上はそのまま使っていても問題はない、というものでした。しかし、一方で、該当する登録商標が一般で使われることで普通名称として定着すると、商標としての価値が低下するのを危惧して、警告メールを流したとも書いています。つまり、普通名称化を防ぐための措置であるとのこと。言い換えると、赤兵衛に落ち度はないが、商標としての価値が無くなると困るので、何とか削除して欲しいというお願いメールだったわけです。それにしては、「警告」という言葉は穏当ではないと思いますね。結果的に私がしたことは、登録商標と同じだった言葉を別な言葉に書き換えて、相手にその旨を伝えました。たかが、ページのタイトルに使った一つの言葉で、とことん抵抗する気持ちは無いからです。でも、この問題を、私以上に深刻に食らったサイトもあったようです。

Yahooでも、infoseekでも、LYCOSでもよいですから、検索サイトで今回問題になった言葉で検索をかけると、必ず上位でヒットするサイトがあります。「・・・・・研究所」です。でも、今それをクリックすると、「諸事情により夜逃げしました」というページが表示されます。もっとも、そのあとで、再起した「ロボペ研究所」にいけますが(^_^)。諸事情の説明はありませんが、このホームページのオーナーが、全てのページから、あの登録商標を消すのにいかに苦労したかは想像できます。幸い、今日現在、「ロボペ」は登録商標ではないので、誰かに警告される恐れはあいりませんが、アイボ関連商品で商売するのであれば、すぐに登録商標を申請したほうがよいでしょうね。そんな、他人事はともかく、振り返って我を見ると、このサイトにも大きな問題がありそうですね。そう、「赤兵衛」は大丈夫なのだろうか。特許庁のサイトで検索をかけると、今回問題となった言葉以上に、登録されているのが分かります。内容は、お酒などの食品や飲み屋さん関係みたいだけど。このサイトが、飲み屋の売り上げを落とすと判断されると、またまた警告メールが来るかも。少なくとも、ここでは、酒の話はぜーったいに書けないということが分かってしまった。(^_^;

IT革命だなんだと、インターネットでビジネスが広がると、そんなビジネスに興味がない個人サイトにも、法律違反だなんだとクレームがやってくる可能性が増えるでしょう。今回の場合、登録商標は商品を売っていなくても登録料金を払えば権利を持てるので、言葉の貸し出し業が成り立つのです。つまり、使われそうな言葉を登録商標にしておいて、定期的にそれらの言葉でインターネットを検索しては、使っている相手から使用料を取るというビジネスです。ただ、その言葉が一般用語になると、商品価値がなくなるので、今回のような「お願い」メールを配ることにもなる。この場合、あくまで「お願い」ですから、請願日よりも先に書いた場合でも、相手はしつこく削除を「お願い」してくるでしょう。今回のケースがそれかどうかは分かりませんが。いずれ、商売の邪魔になる個人ホームページはインターネットから出ていけと言われる時代がこないともかぎらないですね。

2000.10.5
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