オンラインゲームが人生を侵食する

DSLの利用者数が2002年2月末で200万加入を超えました[nikkeibp]。この勢いで行くと、秋には400万加入を超えるかもしれません。ここまで一般利用者のブロードバンド、常時接続が普及すると、すぐに良くも悪しくも新たな社会現象がでるものです。だいたい悪い方向なんですが。その中で見えているのが、オンラインゲーム依存症です。あっちの世界にいっちゃった人たちの問題は、既にアメリカなどで問題になっています。

そもそも、韓国でADSLが普及したのは、スタークラフトというオンラインゲーム(ネットワークを通じて複数の利用者が参加するゲーム)が流行したからだという話もありますから、ブロードバンド接続とゲームの相性は良いようです。そんなわけで、誰も同じことを考えますから、ネットワークを使ったゲームは今年あたりから、どんどん出てくるでしょう。こうしたネットワークを使うゲームは、最近始まったものではないように思います。十年くらい前でも、電話回線を使って遠隔地の相手と対局できる将棋ソフトはあったし、数年前にも、シューティングゲームで、複数の参加者が同じマップの中で戦えるものがありました。もっとも、学校や会社のLANの中でやるならともかく、インターネットを通してこうしたゲームで遊ぶということは、回線の速度が遅くては操作がかったるいし、何よりも時を忘れて熱中するのが基本のゲームなのに、時間で課金されてしまうダイヤルアップ環境はそぐわなかったと言えます。そこに、ブロードバンド常時接続環境がやってきた。これをゲームに使わない手は無いということで、あのメジャーなファイナルファンタジーの次バージョンも、ネットワークへの対応が売りになっています。

ファイナルファンタジーXIのサイト[playonline]に行くと、ネットワーク対応ゲームのイメージがわかります。今までと違うことは、ゲームの世界に生きた相手(人間)がいるということですね。プログラムされたお膳立てはあるにしても、そのゲームの中に表れるキャラクターを別な人間が操作している。すると、予想しない反応が返ってくるかもしれない新鮮な感覚が期待できます。今までの、RPG(ロール・プレイング・ゲーム)でも、登場するキャラクターとの会話が無かったわけではないですが、村の住人やチームの仲間に尋ねても、決まった言葉しか帰ってきませんでした。オンラインゲームになると、相手はゲーム内のキャラクターの見かけをした人間になります。ですから、対話はパソコン通信のチャットと同じになります。話し好きの人がすると、ゲーム時間のほとんどがチャットになるかもしれません。チームを組むにも、連合軍をつくるにしても、武器などのアイテムを交換するにしても、チャットによる交渉が必要になる。これは、今までのゲームの登場人物が、お客様であるプレーヤーを楽しませるために(時に打ち負かすにしても)プログラムされていたのとは、ちょっと異なる環境です。むしろ、パソコン通信のBBSやチャットルームを、ハンドル名を使って渡り歩くのに近いように思います。強いて言えば、ゲームをクリアする目的意識があるところが、プラスされているということか。すると、自分のキャラを巧みに使い分けて、恋愛ゲームを繰り広げる出会い系のBBSに近いのかも。(^_^;

ジョイパッドのボタンを押す反射神経や戦略を競うアクションゲームとは違って、こうしたRPG系のオンラインゲームは、利用者に現実には無い見掛けやルールを持つ仮想空間を提供するサービスといえますが、同時にプレーヤーにとっては、精神的にその作られた世界にはまり込んでしまう危険性を持っています。すでに、アメリカではオンラインゲームの世界に家族を連れ去られた人たちの会が存在します[hotwired]。このニュース記事によれば、アメリカでは「コンピューター画面を見続けるパートナーの後頭部ばかりを、なすこともなく見ている」のに我慢できなくなった人たちの集まり、「反エバークエスト配偶者の会」と「エバークエスト未亡人の会」などがあるのだそうな。その人たちの配偶者は、エバークエスト[sony]というゲームの仮想世界「ノーラス」で、ひねもす剣を振り回したり、魔法を飛ばしているのです。このゲームでも、仮想世界で他のプレーヤーとのコミュニケーションができます。さらには、キャラクター間の結婚もあるんだそうで、それが、現実社会で不倫問題につながることすらあるらしい。これって、新手の出会い系ゲームなんでしょうか。純粋に、剣を振り回して竜と戦っているプレーヤーがほとんどだとは思いますがね。

一方、これまでめんめんと続いてきた、BBSのカルチャーから想像して、この仮想世界でも、やたらと説教をぶちたがる方とか、女装趣味で他の男性プレーヤーにすりよっていく「変な住人」のみなさんの登場は防げないでしょうね。オンラインゲームの世界では、BBSと同様の仮想的な社会が作られます。すると、現世と同じようなトラブルが当然のように起きる。不倫はともかく、ストーカーも現れるだろうし、いじめも起きるでしょう。村の広場で野宿してたら、チーマーに取り囲まれてゲームオーバーなんてことは日常茶飯事かも。匿名性が現実以上に保たれるとすれば、現実以上に過酷な社会が待っているかもしれません。しかし、そんな人間関係のどろどろよりも、むしろ、参加者の時間が奪われるという問題のほうが、実際には深刻だと思います。引用した記事に出てくるアメリカの青年の様に、勉強時間をゲームにとられて学校を中退する人が出てくるでしょう。ゲームに取られた時間が、モンスターとの戦いよりも、変な住人とのチャットによる戦いに費やされるかどうかは別にして、オンラインゲームは反社会的かという問いは、数年前の、パソコン通信が反社会的かという議論と同じように思います。つまり、人間、限られた時間を二つの世界で過ごすことは無理だということ。それを、押し通すと、誰かが、そのプレーヤーとのコミュニケーションを失い、社会生活に空隙が生じていくのです。自宅のLANから、夫婦仲良くオンラインゲームに繰り出したとしても、それは同じことでしょう。

こうした心配とは関係なく、オンラインゲームはビジネスとして広がりつつあります[cnet]。いかに長時間利用者を捕まえるかというビジネス的な興味や、効率的なゲーム用のネットワーク構築といったオンラインゲームに向けた技術的な話題は、業界内にあればそれなりに担当者を熱くさせるでしょう。なんせ、当てればお金が儲かりますから。プロバイダーだって、人気ゲームのゲートウェイであることを顧客獲得の宣伝材料に使えるでしょう。ブロードバンドはつながったが、使い道が分からないままに失速しそうな2002年において、少なくとも帯域(バンド)の消費量をあげる効果は期待できそうです。でもこの記事にあるように、業界の目標が「オンラインゲームの場合、プレーヤーが何ヵ月にもわって週40時間のペースでゲームをして、満足するようで(な)ければ成功したとは言」えないというものであればあるほど、それなら、何ヶ月も週40時間をゲームに費やすユーザーの人生ってなんだろうと思いませんか。もちろん、ゲームを売る人たちの間でも、社会を破壊してまで売ればよいと言う意識はなく、逆に、社会に受け入れられるゲームを考える場[cnet]もあるようです。とはいえ、暴力シーンから子供を守るのは出来ても、ゲーム中毒を抑える方法に関しては、誰も解決策を提示できなかったということです。この記事にあるように、『3時間経過、はい終了』とポップアップウインドウが出るようにしても、それで素直に電源を切るようでは、ゲーム中毒者とは言えませんものね。

30年くらい前なら、人生を悩む高校生がいたかもしれませんが、最近は、高校生もマーケティングの一部に組み込まれて、「君はゲームで失われる人生について考えたことはないか」と聞いたところで、おっさん酔っ払ってんじゃねーよと言われるだけでしょう。むしろ、リストラにむけてひたすら突き進むサラリーマンのおやじの方が人生を考えちゃう時代だもんね。これからは、「ったく」と酒をあおりつつ、横目でゲームに埋没していく子供を見るのだろうな。あるいは、自分もそっちの世界の人になる?ナンチャラ山のボスキャラを仲間と討ち果たして振り向いたら、一緒に戦っていた女白魔術師は息子だった、なんてこともあるかも。これも、新しい人生のあり方でしょうか。

2002.4.6
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