JAZZは醜く歪んだ音楽かもしれません。

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疾風怒涛編〜実際の演奏で流れを確かめてみましょう。

疾風怒濤編です(笑)。
それでは具体的にジャズの名盤から幾つかの例を挙げて
説明して見たいと思います。
どれも簡単にCD屋サンで手に入るモノばかりです。
ちなみに表示された時間は、手元のCDを聴きながら
目で確認して書いたものなのでちょっとズレてるとこもあるかも。


ex.1 コンボ演奏による典型的な展開例】

THE BLUES WALK 
CLIFFORD BROWN & MAX ROACH /  (EMARCY)
begin03.jpg (6952 バイト) クリフォードブラウン(TP),
マックスローチ(DS),
ハロルドランド(TS),
ジョージモロウ(B)
リッチ―パウエル(PF)
ハードバップ黄金期の1954〜55年にかけて録音された
ブラウン&ローチの双頭コンボによる名盤。
取り上げた"BLUES WALK"が個人的に大好きなので
これを取り上げましたが、どのアルバムも間違いナシ!
「BROWN AND ROACH,INC/(EMARCY)」
「STUDY IN BROWN/(EMARCY)」
「AT BASIN STREET/(EMARCY)」
「MORE STUDY IN BROWN/(EMARCY」(日本企画)
イントロ 00'00"

テーマのラスト部分を使った4小節の短いイントロ。
「ハードバップの世界へようこそ!」って感じの
高らかなファンファーレの様です。

テーマ 00'04"

2管のフロントのアンサンブルで
ブルース形式の12小節の短いテーマを
ストレートに2回繰り返してます。
最初の8小節はユニゾン、次の2小節でハモ、
最後の2小節はフィルインにあてられてます。

アドリブ(トランペット) 00'27"

輝かしいクリフォードブラウンのアドリブです。
こんなにも魅力的なフレーズを次から次へと
瞬間的に生み出していくとはまさに神業です。
中間でハロルドランドがリフを絡めていきますが、
それがややシンコペイテッドなフレーズなので
ブラウンはちょっと吹きにくそう(笑)。

アドリブ(テナー) 01'47"

続くハロルドランドのテナーサックスソロも歌い捲くっています。
中間では今度はクリフォードブラウンがリフを。
こっちのリフは実に単純明解でわかりやすい。
ランドのアドリブも更に勢いも増した感じでしょ。

アドリブ(ピアノ) 03'15"

リッチ―パウエルのピアノソロ。
ややアイデアがスピードについていかず
パターン化されたフレーズがやや目立つかな?
でもシングルトーンからコードパターンでの展開へと
アドリブ全体にメリハリをつけているのは流石。

アドリブ(ドラム) 04'19"

ドラムソロに入る前にフロント2管でまた別のリフを提示。
マックスローチは終始インテンポのままソロをとってます。
小節数も合ってると思うのですが、完全ソロの場合、
そんな細かいことは気にせず勢いで聴きましょう(笑)。

アドリブ(チェイス) 05'30"

ブラウニーとランドでチェイス。この展開が面白い。
最初は4バースチェンジなんですが、
次に2バースチェンジ、次に1バースチェンジ、
遂には1/2バースチェンジにまで持っていきます。

テーマ 06'24"

目まぐるしいアドリブ交換の後で明快なテーマが
飛び出してくるとスカーッとしますねー。
でもブラウンは出損ねてますけど(笑)。
コーダも何もなくテーマを2回繰り返して
スパッと終わっています。


ex.2 ピアノトリオによる典型的な展開例】

WHISPER NOT
WHISPER NOT / KEITH JARRETT (ECM)
begin04.jpg (6014 バイト) キースジャレット(PF),
ゲイリーピーコック(B),
ジャックディジョネット(DS)
キースジャレットの2000年発売のアルバムです。
彼は独自のスタイルを持ったピアニストとして
日本でも大変人気のあるミュージシャンですが、
begin07.jpg (6689 バイト)begin06.jpg (7898 バイト)このスタンダーズの活動が
彼の人気を不動のモノにしたと
云っても良いと思います。
やや難解だったキースが
判りやすいレベルにまで
歩みよってくれたって感じかな。
「STANDARDS,VOL1/(ECM)」
「STANDARDS,VOL.2/(ECM)」に始まり
現在に至るまで精力的に活動を続けています。
ここで取り上げたウイスパーノットと云う曲は
ベニーゴルソンが作った実に美しい曲です。
この人は悪徳の宝石商みたいな顔をして
実に良い曲を書きます(笑)。
AABA形式の32小節の曲であります。
イントロ 00'00"

キースジャレットの完全ソロで始まります。
イントロと云うよりはソロによるアドリブですね。
既にウイスバーノットのコード進行に乗っかってます。

テーマ 00'57"

ドラム&ベースが入ってきたところから
オープニングテーマに突入しているのですが、
キースはAABAの最初のAのパートを
ソロの流れのままアドリブで展開しています。
意図的にやったのか、はたまた、
アドリブから戻れなかったのか(笑)。

アドリブ(ピアノ) 01'54"

アドリブに突入して1コーラス目のサビの最後辺りから、
再びストレートにテーマが飛び出してきて
2回アドリブに突入したみたいな感じがしますね(笑)。
ちょうどそこから彼のプレイにも気合が入り始めます。
ディジョネットのドラムもそこでブラシから
スティックに持ち替えてシンバルレガートを始めてます。
キースを初めて聴いた人はビックリすると思いますが、
彼は弾きながらずーっと高い声で唸っております。
別に心霊現象ではありませんのでご安心下さい。

アドリブ(ベース) 05'40"

ゲイリーピーコックのベースソロ。
キースはグッとヴォリュームを落として
完全にピーコックのサポートに入っています。
少し短めのソロですが良く歌ってると思います。
ベースの人は普段縁の下の力持ちなので
ソロパートにはじっくりと耳を傾けてあげましょう(笑)。

テーマ 06'35"

ラストテーマでも少し面白いことをしています。
AABAの2つ目のAのところでいきなり
今までなかった新しいメロディが出てきたでしょ?
これはゴルソンのコンボアレンジで使われてた
セカンドリフなんですが、これを流用してるのですね。

コーダ 07'30"

テーマのラストを変形させた短いコーダです。


ex.3 ピアノトリオによるイレギュラーな展開例】

枯葉(AUTUMN LEAVES) 
PORTRAIT IN JAZZ / BILL EVANS (RIVERSIDE)
begin02.jpg (4868 バイト) ビルエヴァンス(PF),
スコットラファロ(B),
ポールモチアン(DS)
ビルエヴァンスが1959年に録音した歴史的名盤。
特に枯葉の決定的名演で知られています。
2つのテイクが収められているので
聴き比べしてみるのも面白いですね。
今回はテイク1を元にしております。
表面的にはオシャレなジャズと思われ勝ちですが、
ピアノとベースとドラムが対等の立場に立って
火花を散らせる凄い演奏なのです。
展開もかなりイレギュラー。
イントロ 00'00"

テーマをかなり変形させた挑発的なイントロ。
敢えて硬いブロックコードを使って
続くテーマのしなやかさを際立たせています。

テーマ 00'08"

だれもが知っている枯葉ですから、
素直にテーマを演奏しても面白くありません。
って事でかなり大胆なフェイク
もう殆どアドリブと云っても良いかもしれませんが
頭の中で枯葉のメロディが浮かび上がってくるから
不思議です。

アドリブ(バトル) 00'45"

いきなりイレギュラーな展開です。
ベースソロに行くのかと思いきや
ピアノ&ドラムが絡んできて
断片的なフレーズのインタープレイが始まります。
メロディになりそうでならないイライラした感じ。

アドリブ(ピアノ) 02'01"

エヴァンスのアドリブに入った瞬間から
ベースとドラムが明確な4ビートを刻み始めます。
ここまでビートが途切れがちだった為に躍動感が
際立って感じられますね。
シングルトーンでリリカルなフレーズを紡ぎ出す右手、
テンションの高いコードを重いリズムで刻む左手。
エヴァンスの特徴が良く出たソロだと思います。

アドリブ(バトル) 04'30"

ここの解釈はベースソロととらえるか、
はたまた掛け合いととらえるか、
実に微妙なところです。
エヴァンスは明確にラファロにソロを渡していません。
ラファロのベースはウォーキングをやめて
ソロっぽいフレーズを歌い始めているのに
エヴァンスのピアノもアドリブを続けているのです。
ソロとバッキングと云う主従関係を無視して
インタープレイに持ちこんだスリリングな展開が面白い。

テーマ 05'05"

ラファロのソロが歌い始めたところでラストテーマ突入。
ラストテーマに至っては殆ど原型をとどめないくらいの
フェイクが施されています。アドリブだな、こりゃ。

コーダ 05'40"

テーマのラストを変形させてそのままエンディングへ。


それでは、もう1つおまけに…。
ジャズの集団即興演奏が様々な約束の上になりたってるんだと云う事を
うまくいかなかった例を挙げて実感していただきましょう(笑)。

ex.3 コンボ演奏によるわやくちゃな例】

WELL,YOU NEEDN'T 
MONK'S MUSIC / THELONIOUS MONK (PRESTIGE)
begin05.jpg (6761 バイト) セロニアスモンク(PF),
レイコープランド(TP),
ジジクライス(AS),
コールマンホーキンス(TS),
ジョンコルトレーン(TS),
ウィルバーウェアー(B),
アートブレイキー(DS)
セロニアスモンクの1957年のアルバムです。
失敗テイクを収めたアルバムとして有名です。
逆に云うとこれほどモンクらしい演奏はありません(笑)。
今でも頻繁に演奏される"WELL YOU NEEDN'T"は
AABA形式の32小節からなる曲です。
イントロ 00'00"

もー、曲の流れなんか全く無視したミステリアスなイントロ。
これでちゃんと出れるのが凄いなぁ(笑)。

テーマ 00'11"

モンクらしいフレージングの曲です。
Aメロもさる事ながらBメロのクロマティックな進行が面白い。

アドリブ(ピアノ) 00'57"

実に投げやりなアドリブです(笑)。
ここで問題が勃発。
モンクは2コーラス目のBメロのラストで
明らかに小節数を見失っています。
BからAに戻ったところで既にモンクのソロは字余りっ。
更にアドリブのラストで「コルトレーン、コルトレーン」と叫んだ為
それに合わせてアートブレイキーがロールをフィルインしてしまった。
おかげでコルトレーンのソロが2拍遅れて始まる羽目に。

アドリブ(テナー) 02'23"

一番慌てたのはベースのウィルバーウェアで
様子見に8小節近く同じ音を弾いてますね(笑)。
ずれてしまった場合、ソロをとってるヤツに合わせた方が
ナチュラルに誤魔化せます(笑)。
ようやく2つ目のAのところでウォーキングベースを開始。
それなのにモンクったら、また変なバッキングをするもんだから
今度はコルトレーンのソロがちょっと戸惑ってますね(笑)。
こんな時頼りになるのがBメロです。
モンクのわかりやすいコードワークでやっとこさみんな安心。
コルトレーンのソロもまたグネグネと始まるのでした。
(ライナーノートの油井正一さんの見解とはちょっと異なりますが。)

アドリブ(トランペット) 03'48"

ソロに関してはあまり冴えないので特記事項はないのですが、
モンクが1コーラス目のAAと2コーラス目の後半のABAで
全く弾いておりません(笑)。

アドリブ(ベース) 05'13"

ここでもモンクが全く弾いてないので
ベースとドラムだけの音が寂しく響いております(笑)。

アドリブ(ドラム) 05'55"

完全ソロですがアートブレイキーは2コーラスのソロを
完璧にこなし、更にはわかりやすくロールで〆ています。

アドリブ(テナー) 07'13"

それにも関わらず、ウィルバーウェアは出だしを見失ったみたいで
探りを入れてますね(笑)。ったく。
さあ今度のテナーはコールマンホーキンスです。
ビバップ以前の人ですのでスタイル的には古いですが、
この太い男性的な音色が良いですね。
コルトレーンのソロと比較してみると面白いです。
ただ彼も2コーラス目でちょっと見失ってっぽい感じもします。
更に次へのソロの受け渡しで1小節食いこんでしまった罪は重い。

アドリブ(アルト) 08'35"

ジジグライスのアルトは少しハスキーで繊細。
コールマンホーキンスの後に出てくると
なんだか女性的な感じがします。
目立たないですが知的なフレージングが信条の人。
しかしホーキンスからの受け渡しが食いこんできたので
ジジグライスのソロは全体的にリズムセクションとぎくしゃく。
合ってるのかと思えばずれてるようだし、
もうこうなると修復のしようがありませんね。

アドリブ(ピアノ) 9'55"

ジジグライスのソロが完全に次のコーラスにはみ出してしまい
これじゃテーマに戻れないと機転を利かせたモンクが
急遽ソロをとったのではないかと思われます。

テーマ 10'34"

まー色々あったけど、ラストテーマに辿りつけて
ホントに良かった良かった(笑)。

コーダ 11'12"

テーマのラストを変形させてそのままエンディングへ。
やっと終わった〜って感じのぐったり感が素敵です(爆笑)。

とまあひどい演奏ですけど、一流のジャズメンなら
失敗テイクであっても、聴き応えがあるのですねー。


如何でしたか?
できれば実際にCDを聴きながら読んでいただけると
ジャズの流れを理解するのに役立つと思うのですが…。
今まで雰囲気で聴いていた時よりジャズがわかった様な気がしてくれたら
大変嬉しゅうございます。
色々細かい事も書きましたけど、私もいつもはこんな事を考えながら
聴いている訳ではありません。
慣れてくると意識しなくても耳が流れを感じてくれる様になる筈です。

何か一枚ジャズのアルバムが手元にあれば、一度流れを意識しながら
聴いて見ては如何でしょうか?
気に入ったプレイヤーがいたらその名前も覚えておくのも良いですね。
次回は、「興味の広がり」について触れてみたいと思っています。

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