◆アドリブの魅力と演奏形式について
ダウンタウンの松本仁志の話を聞いて爆笑しながらも
「なんで咄嗟にそんな事思いつくねん。凄いなぁ。」と
思ったことはありませんか?
ジャズのアドリブもこの感覚に似ています。
瞬間瞬間に生み出されていくフレーズを楽しみ、
そのクオリティの高さに驚き、
生み出される瞬間のスリルを味わう。
これが笑いであるか音楽であるかの違いだけです。
予め与えられた台本通り演じる漫才やコントが
一般的なポピュラー音楽だとしたならば、
ジャズはどう転ぶかわからないフリートークに近い。
その分リスキーですが、各人のタレント性が大きく反映される
ハイテンションな舞台が与えられる訳です。
知的な語り口の人もいれば、
やたらめったら速射砲の様に喋る人もいる。
コテコテのベタなシャベクリのヤツもいれば、
寡黙で朴訥とした話の中に味わいのある人もいる。
色んな人の話を訊いてると面白いように、
色んなプレイヤーの個性を楽しむのです。
これがアドリブの魅力だと私は思います。
ジャズはアドリブにとり憑かれ、探求する余り
できるだけ自由にたっぷりとアドリブを行なえる様にと
極度にアドリブパートの長い奇妙な形に歪んでいきます。
まるで卵を産むために変形していったシロアリの女王の様に。
しかしソロではなくグループで即興演奏を成立させるためには
様々な取り決めが必要になってきます。
それがなければ只のドシャメシャな音楽に陥ってしまうでしょう。
なのにその約束事は暗黙の了解事項になっているため
CDを買ってきても<はじめに>とか<使用上の注意>とか
そんなモノはどこにも書かれていません(笑)。
そこでまずは、極々一般的なポピュラー音楽との
演奏の流れの違いについて比較して見ましょう。
【ポピュラー音楽の流れと聴き方の一例】
イントロ 「お、始まるな。」 ▼ 歌(1番) 「エエ曲やなぁ。」 ▼ 歌(2番) 「こいつ、歌巧いなぁ。」 ▼ 間奏(約15秒) ポリポリ…(煎餅食ってる) ▼ 歌(3番) 「♪フンフン」(ちょっと覚えた) ▼ エンディング 「終わったか、次何聴こ?」 ロケ地:東京
実際にはもっと複雑な進行のモノが多いですが、
基本的には歌の部分を中心に聴くって事には変わりないでしょう。
一方ジャズはどうなっているかと云うと
【ジャズの流れの一例】
イントロ イントロがない場合もありますけど、
重要な仕掛けの一つだと思います。
プレイヤーが自分のオリジナルのモノをつけたり、
もともとイントロまで作曲してくれてたり、様々。
昔のスタンダードナンバーだと
ヴァ―スを演奏する事もあり。▼ テーマ 曲をある程度ストレートに演奏します。
「これからこのテーマのコード進行に基づいて
アドリブを展開します」って提示部。
尖がった演奏だとこれが省略される事も稀に。▼ アドリブ(サックス) まず一人目のアドリブが始まります。
別にサックスが最初と云う訳じゃないですが、
フロントがいたらその人からってケースが多い。
その間、リズムセクションはずーっとテーマのコード進行を
何コーラスも繰り返して演奏しています。▼ アドリブ(ピアノ) 二人目のアドリブ。
ピアノのアドリブの時は管は休んでる事が多い。▼ アドリブ(ベース) 三人目のアドリブ。
ベースは音量的にハンデがあるので、
ドラムもピアノも控え目にバッキングして
ベースを目立たせる様にする事が多い。
しかしエレベだと関係なく派手にデケデケ可。▼ アドリブ(ドラム) ジャズは平等なのでドラムまでソロが回ります。
完全にドラムソロで演る事もありますが、
メロディがないと単調になりがちなので
多くの場合、4バースチェンジ等で
展開に変化を持たせる工夫をしています。▼ テーマ ラストテーマとも云います。
最初に提示した曲をもう一度提示する事で
アドリブパートの終了を知らせ、まとめに入る。▼ コーダ 曲の終了感を強調するためコーダを工夫する事も。
まあ大まかには、こんな感じになっています。
当然実際にはもっと凝った進行のモノが多いのですが、
それは後述の「疾風怒濤編」で触れる事にします。
ってほんまかー(笑)。
この流れを見ていただければおわかりの様に
演奏の殆どをアドリブが占めております。
もしこのルールを知らないで、ポップスの聴き方で聴くと
とんでもない事になります。
【ジャズの流れと聴き方のまずい例】
イントロ 「お、始まるな。」 ▼ テーマ 「エエ曲やなぁ。」 ▼ アドリブ(サックス) ポリポリ…(煎餅食ってる) ▼ アドリブ(ピアノ) ポリポリ…(煎餅食ってる) ▼ アドリブ(ベース) ポリポリ…(煎餅食ってる) ▼ アドリブ(ドラム) ポリポリ…(煎餅食ってる) ▼ テーマ 「まだやってたんかいな。」 ▼ コーダ 「もうお腹一杯や…。げふっ」
なんと恐ろしい!
こういしてジャズは理解されることのないまま、
その人の中では、「なんか訳のわからない長い演奏」と
烙印を押され、敬遠されてしまうのです。
ところがジャズの流れを理解した上で聴くと
【ジャズの流れと聴き方の良い例】
イントロ 「お、始まるな。」 ▼ テーマ 「この曲を料理すんねんな。」 ▼ アドリブ(サックス) 「ええフレーズ吹くやん。」 ▼ アドリブ(ピアノ) 「アグレッシヴやの〜。」 ▼ アドリブ(ベース) 「渋いっ!」 ▼ アドリブ(ドラム) 「タイトなドラムやな。」 ▼ テーマ 「♪フンフン」(余韻に浸ってる) ▼ コーダ 「良かったなぁ。次聴こ。」
あら不思議。
あんなに退屈だった筈のアドリブパートから
様々な刺激が溢れ出してくるではありませんか!
確かに普段歌詞のある音楽しか聴きかない人にとっては、
インストルメンタルな音楽って馴染みがないかもしれません。
しかしプレイヤーも楽器を使って歌っている訳ですから
そこには歌心が込められているのですね。
また普段クラシックを聴いてはる人にとっては
変奏曲だと理解した方がわかりやすいかもしれませんね。
それでは、いくつかの具体例を挙げて演奏の流れを
見てみる事に致しましょう。