JAZZは醜く歪んだ音楽かもしれません。

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アドリブの魅力と演奏形式について

ダウンタウンの松本仁志の話を聞いて爆笑しながらも
「なんで咄嗟にそんな事思いつくねん。凄いなぁ。」と
思ったことはありませんか?
ジャズのアドリブもこの感覚に似ています。
瞬間瞬間に生み出されていくフレーズを楽しみ、
そのクオリティの高さに驚き、
生み出される瞬間のスリルを味わう。
これが笑いであるか音楽であるかの違いだけです。
予め与えられた台本通り演じる漫才やコントが
一般的なポピュラー音楽だとしたならば、
ジャズはどう転ぶかわからないフリートークに近い。
その分リスキーですが、各人のタレント性が大きく反映される
ハイテンションな舞台が与えられる訳です。
知的な語り口の人もいれば、
やたらめったら速射砲の様に喋る人もいる。
コテコテのベタなシャベクリのヤツもいれば、
寡黙で朴訥とした話の中に味わいのある人もいる。
色んな人の話を訊いてると面白いように、
色んなプレイヤーの個性を楽しむのです。
これがアドリブの魅力だと私は思います。

ジャズはアドリブにとり憑かれ、探求する余り
できるだけ自由にたっぷりとアドリブを行なえる様にと
極度にアドリブパートの長い奇妙な形に歪んでいきます。
まるで卵を産むために変形していったシロアリの女王の様に。
しかしソロではなくグループで即興演奏を成立させるためには
様々な取り決めが必要になってきます。
それがなければ只のドシャメシャな音楽に陥ってしまうでしょう。
なのにその約束事は暗黙の了解事項になっているため
CDを買ってきても<はじめに>とか<使用上の注意>とか
そんなモノはどこにも書かれていません(笑)。
そこでまずは、極々一般的なポピュラー音楽との
演奏の流れの違いについて比較して見ましょう。

【ポピュラー音楽の流れと聴き方の一例】

イントロ 「お、始まるな。」
歌(1番) 「エエ曲やなぁ。」
歌(2番) 「こいつ、歌巧いなぁ。」
間奏(約15秒) ポリポリ…(煎餅食ってる)
歌(3番) 「♪フンフン」(ちょっと覚えた)
エンディング 「終わったか、次何聴こ?」
ロケ地:東京

実際にはもっと複雑な進行のモノが多いですが、
基本的には歌の部分を中心に聴くって事には変わりないでしょう。
一方ジャズはどうなっているかと云うと

【ジャズの流れの一例】

イントロ

イントロがない場合もありますけど、
重要な仕掛けの一つだと思います。
プレイヤーが自分のオリジナルのモノをつけたり、
もともとイントロまで作曲してくれてたり、様々。
昔のスタンダードナンバーだと
ヴァ―スを演奏する事もあり。

テーマ

曲をある程度ストレートに演奏します。
「これからこのテーマのコード進行に基づいて
アドリブを展開します」って提示部。
尖がった演奏だとこれが省略される事も稀に。

アドリブ(サックス)

まず一人目のアドリブが始まります。
別にサックスが最初と云う訳じゃないですが、
フロントがいたらその人からってケースが多い。
その間、リズムセクションはずーっとテーマのコード進行
コーラスも繰り返して演奏しています。

アドリブ(ピアノ)

二人目のアドリブ。
ピアノのアドリブの時はは休んでる事が多い。

アドリブ(ベース)

三人目のアドリブ。
ベースは音量的にハンデがあるので、
ドラムもピアノも控え目にバッキングして
ベースを目立たせる様にする事が多い。
しかしエレベだと関係なく派手にデケデケ可。

アドリブ(ドラム)

ジャズは平等なのでドラムまでソロが回ります。
完全にドラムソロで演る事もありますが、
メロディがないと単調になりがちなので
多くの場合、4バースチェンジ等で
展開に変化を持たせる工夫をしています。

テーマ

ラストテーマとも云います。
最初に提示した曲をもう一度提示する事で
アドリブパートの終了を知らせ、まとめに入る。

コーダ

曲の終了感を強調するためコーダを工夫する事も。

まあ大まかには、こんな感じになっています。
当然実際にはもっと凝った進行のモノが多いのですが、
それは後述の「疾風怒濤編」で触れる事にします。
ってほんまかー(笑)。
この流れを見ていただければおわかりの様に
演奏の殆どをアドリブが占めております。
もしこのルールを知らないで、ポップスの聴き方で聴くと
とんでもない事になります。

【ジャズの流れと聴き方のまずい例】

イントロ 「お、始まるな。」
テーマ 「エエ曲やなぁ。」
アドリブ(サックス) ポリポリ…(煎餅食ってる)
アドリブ(ピアノ) ポリポリ…(煎餅食ってる)
アドリブ(ベース) ポリポリ…(煎餅食ってる)
アドリブ(ドラム) ポリポリ…(煎餅食ってる)
テーマ 「まだやってたんかいな。」
コーダ 「もうお腹一杯や…。げふっ」

なんと恐ろしい!
こういしてジャズは理解されることのないまま、
その人の中では、「なんか訳のわからない長い演奏」と
烙印を押され、敬遠されてしまうのです。

ところがジャズの流れを理解した上で聴くと

【ジャズの流れと聴き方の良い例】

イントロ 「お、始まるな。」
テーマ 「この曲を料理すんねんな。」
アドリブ(サックス) 「ええフレーズ吹くやん。」
アドリブ(ピアノ) 「アグレッシヴやの〜。」
アドリブ(ベース) 「渋いっ!」
アドリブ(ドラム) 「タイトなドラムやな。」
テーマ 「♪フンフン」(余韻に浸ってる)
コーダ 「良かったなぁ。次聴こ。」

あら不思議。
あんなに退屈だった筈のアドリブパートから
様々な刺激が溢れ出してくるではありませんか!

確かに普段歌詞のある音楽しか聴きかない人にとっては、
インストルメンタルな音楽って馴染みがないかもしれません。
しかしプレイヤーも楽器を使って歌っている訳ですから
そこには歌心が込められているのですね。

また普段クラシックを聴いてはる人にとっては
変奏曲だと理解した方がわかりやすいかもしれませんね。

それでは、いくつかの具体例を挙げて演奏の流れを
見てみる事に致しましょう。

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