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No.209 中国山東省2003―47.中国考11 中国と日本の潔不潔

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●中国は不潔か?

 日本人の中国滞在経験者の中には、中国の「不潔さ」を強調し、それと対比
させるように日本の清潔さを強調する人がいる。
 たしかに、日本とくらべて不潔と感じるところがあることは、中国に行った
ことのある人なら納得するだろう。
 しかし、中国より清潔だと思っている日本人の常識ですら、不潔と思えるこ
ともある。
 こう言うと疑問に思う人が多いだろうが、それは日本人の常識に縛られてい
て見えていないだけだ。
 それに、現在の日本は、病的なほどの清潔好きになってしまったようにも感
じる。それを基準にしていいのだろうか。
 また、父母やおじおばなどに聞く戦前戦後の日本は、現在から比べると必ず
しも清潔とはいえなかったように思う。ということは、現在の日本が清潔なの
は、日本人が将来の清潔好きというよりも、先人の努力の結果というべきでは
ないだろうか。
 だから、単純に日本人は清潔好きと言い切り、中国を笑うことに対しては疑
問を感じる。

●お風呂は清潔?

 日本人清潔説の根拠として、まず上がってくるのはお風呂だろう。日本人は
毎日のようにお風呂に入る。だから清潔好きだ、と。
 中国にも湯船のある公衆浴場はあるが、湯船の湯が汚いものがあり、人々は
あまり湯船につからず、シャワーで済ませるだけ、など。
 確かに中国の公衆浴場の湯船の湯汚れていることがあるのは否定しないが、
そもそも、湯船に入る行為はそんなに清潔なものだろうか。
 日本人が日本の公衆浴場の湯船につかるときはどうするだろうか。個人差は
あるだろうが、体を洗う前、かかり湯程度で湯船につかる日本人は少なくない
のではないだろう。
 かかり湯程度では、それほど清潔にはならないだろう。なぜなら、湯船から
あがってから体を洗うのだから。
 日本人にもいろいろな人がいる。そういう人と同じお湯を共有するシステム
ある日本のお風呂、特に不特定多数が入る銭湯は、「清潔でない」ということ
もできるのではないだろうか。
 多くの人が清潔でも、たった一人の不潔な人のためにそれ以後の人が清潔で
なくなるシステムだから。
 実際、レジオネラ菌のような感染症が入浴で広まったということもある。も
ちろん、社会や行政機関時間などのちがいにより、今の日本は中国よりも清潔
だと思うが、単純に清潔と思い込んでしまうと、そこに落とし穴があるように
感じる。

●炒めるのはなぜ?

 ほかに中国不潔説の根拠としてよく耳にするのは、中国の食べ物には炒め物
が多いというものがある。炒めるという行為で食材に熱を通して、殺菌をして
いるのだ、と。
 しかし、実は炒めるという加熱法では、細菌の類が死滅するのはごく表面だ
けで、完全に死滅させるのは長時間炒めることが必要だ。
 たしかに、中国の炒め物は火が通りやすいように細切りが多いが、本当に細
菌類の死滅が加熱の原因なら、もっと蒸し料理や煮込み料理が増えることにな
るだろう。
 それに、冷菜という室温で食べるつめたい料理が当たり前のようにあるのは
以前書いたとおりだ。
 だから、これも中国不潔説の根拠にはならない。それに、今よりも不潔だっ
た時代に日本には炒め料理が多かったかというと、そうではないだろう。なに
しろ、江戸時代には町角の屋台ですしを食べることができたくらいだ。
 このように、「中国は日本より劣っている病」におかされた日本人は、中国
人の日常生活のすべてが、中国人不潔説(日本人絶対清潔説)へと結びつくの
である。

●寄生虫

 旅行と衛生に関することで気になることに寄生虫のことがある。
 寄生虫というと、生物の体内で生き抜くしぶとい生き物というイメージがあ
りそうだが、意外とデリケートで、特定の動物でないと生殖可能な大人に成長
できないという。
 とはいえ、基本的に行動力の無い生物なので、一度寄生するとそこで一生生
きていかなければならない。そのため、本来寄生する動物で無かった場合、あ
ばれることになる。
 その結果、脳など重要な器官に移動し、宿主(しゅくしゅ)の命を奪うとい
う結果になることもある。
 特に注意が必要なのはこのタイプの寄生虫といわれている。なぜなら、普通
なら、寄生した相手を殺してしまってはもともこもない。自分も共倒れになっ
てしまう。だから、致命的なところに寄生はしないものだ。
 もちろん、すべての寄生虫がそういう「穏やか」なものとは限らないが。

●日本で寄生虫

 宿主に異物として排除されないように工夫する寄生虫なので、仮に日本にい
る種類でも、専門の検査をしなければ発見することが難しく、自覚症状が無い
ものなどは社会保険の定期診断等では見つけられないこともあるらしい。
 稀に新聞で報道もされる、日本の寄生虫による風土病では、自覚症状が出る
まで10年から20年。自覚症状が出たときには、手遅れになっていることも少な
くない。
 また、患者の半数が死亡という話もある。ただ、ぼくが知っている患者数は
かなり少ないが。
 このように、外国へ行った行かないにかかわらず、気になるなら寄生虫の専
門医に行くことが重要と言う話も聞く。また、はっきりと医者に対してその可
能性を言う必要があると忠告されたこともある。

●日本の寄生虫

 戦後の日本人の寄生虫保有率は70%とか言われている。もちろん、今はそれ
ほどではない。はるかに低い。
 以前、大阪の某テレビ番組で、生きた回虫を見たいという視聴者の依頼に、
大学などの研究機関を回った末、保有率が高い国から来た人を調べても見つか
らず、以前に撮影した映像を見るしかなかった、と言うのがあった。
 また、厚生労働省のサイトで、白書の検索しても近年の寄生虫の保有率につ
いては見つけられなかったが、回虫の保有率が昭和38年に10%を割り41年には
4.2%まで低下したというデータがあった。
 しかし、近年は無知無責任なアウトドアブームと、ペットからの感染が急増
しているようでだ。
 ともあれ、日本人は寄生虫に対して無頓着なところがあり、それが本人を危
険にさらすことになる。
 日本の実態を知らずして中国のことを笑うのは、目くそが鼻くそを笑ってい
ることと同じではないだろうか。

●つづく●
                   Copyright(C), Fieldnotes. 2004
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