忘れじの春(1986年8/1リリース)

 今年も春が過ぎていった。この歌のさわやかな旋律を、いつも伴って僕の住む町を春が渡ってゆく。ホント、この歌を
聴きながら、僕の住む町を横切る道を走ると、風が、季節が空を駆けていくような気になれる。
 この町に移り住んで、もう7年になる。とにかくこの町の春には感動した。何しろ町が一面桃の花色になるのだから。
 東から西にこの町を横切る道があるが、この道を車で走るといい。この道は、町にはいるまでは、山を切り通して来る
ので景色はあまり見ることができない。しかし、町に入る直前に道の両側、斜面一面に一斉に咲いた桃の花の歓迎を受け
ることになる。これで驚いてはいけない。ここからがまた凄いのだ。
 この切り通しの道は、東から峠を越えてくることになるので、町には行った頃は、下り坂になってきて見通しのいい直
線になる。右側にため池がでてくるのだが、晴れた日はこの池にも桃の花が写ってそれは見事な鏡絵になる。ため池を通
り過ぎると、正面よりちょっと右側に、通称「讃岐冨士」と呼ばれる形のいい小山が現れる。この讃岐冨士の裾のにも桃
の花の花模様が彩られ、それが見え始めると、目の前至る所、桃の花のテーブルクロスを広げたような町を見ることにな
る。
 もちろんこの時期は短く、ウグイスの声を聞き慣れる頃には、緑が輝き始めている。
 「桃源郷」当然、行ったことも見たこともないけれど、駆け足で渡って行く季節の風が見ることができるような気がす
る。足を止めて心落ち着かせることができる場所と、時それがこの町には残っているのである。生まれ育った町ではない
けれど、遠く離れて暮らす弟が帰ってきた時に「ふるさと」としてできるだけホッとできる処を残しておきたいと思う。
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