ベトナム旅行記

(その2)べトナムの市場の現状と課題


 今回の報告の内容は、ベトナム駐在の商社の方に聞いて、私の感じたべトナムの市場の現状と課題についてまとめたものです。ベトナムとの取り引きを考えている方にこの情報が幾ばくかの参考になれば幸いです。

1 市場動向

  95年上半期の経済状況(前年同期比)は、工業総生産額13.5%増。輸出高22億ドル(35%増)。輸入高23.7億ドル(14.5増)。冬春米生産量は1100万トン(50万トン増)。なお、ベトナムはタイに次ぎ世界で2番目の米輸出国であり、今年は200万トンを輸出に回しています。水産物輸出は2.9億ドル(15%増)で、エビやイカが主です。 

 

2 投資 

 95年上半期の外国投資許可件数は206件、投資総額で36億ドルとなり、大幅に伸びています。日本が件数で30件、金額で7.5億ドルと遂に第1位になり、続いて台湾の31件、6.1億ドル、3位は韓国、アメリカも12件、4億ドルで4位まで浮上して来ました。

3 日本とベトナム間の1〜5月の貿易総額

  輸出が300億円、年計では600億円程度。輸入が611億円、年計で2000億円と、現在は対前年比微増だが、年計ではほぼ変わらない見込みです。日本からの輸入品の主なものは家電製品とモーターバイクです。モーターバイクは半分が中古です。 ベトナム全体では、輸出が45億ドル、輸入が55億ドルで、貿易収支は赤字です。

4 企業進出  

 ホーチミンシチーに日系企業が106社進出し、各国を含めた駐在員事務所数は1041社となり、本年度だけで400社増えました。合弁形態での日本企業進出関連は、自動車、案電、自動車部品、縫製、不動産など活発になっています。 日本人駐在員はホーチミンシチーに700〜800人で、ハノイにも同じ位駐在しています。ここ2年で街も変貌しており、ホーチミンシチーには日本料理屋は26軒もあります。

 

5 中期的課題

  外国資本からの投資を直轄する国家協力投資委員会(SCCI)と、インフラ整備を司る国家計画委員会(SPI)がこのたび合併して、計画投資省(MPI:Ministry of Planning & Investigation)となり、インフラの基盤整理を一段と強化しています。

 

   為替レートは、2年半前は1ドル=1万4千ドンでしたが、現在では約1万ドンとなっています。インフレは、年2桁の規模で進行中であり、去年は9.5%でした。当局は、今年は10%前後に抑えたい意向ですが、14〜15%の伸びが見込まれています。これは中国に密輸出している米の価格(30〜70円/kg)やセメントの価格の高騰によるものです。GDP(国内総生産)は約200ドルのレベルですが、14〜15%の伸びが見込まれ、インフレは成長率との兼ね合い次第です。

 

   内政面では、共産党一党体制による社会主義路線を踏襲していますが、反政府グループは多数あり、最近も共産党のチェックにより80団体の解散を求めたと報道されています。

 

   外政面では、脱イデオロギーの全方位外交であり、アメリカに対しては、最恵国待遇がいつ取れるのかが焦点になっています。既に米国のキヤタピラ、GM、カミンズからは資本が入って来ています。

   国境を接する中国とは平和共存を図っています。 

   日本に対しては、中国やアメリカとのコーディネイトを期待しています。また、直接投資、人材育成、技術移転など、多面的な貢献を期待しています。

   フランスは、旧宗主国だったのでべトナムの老人はフランス語を話せますが、仕事においての影響力はありません。一方、ドイツは、コール首相自らが訪問し、メルセデスベンツの工場も開設の予定です。

   ASEAN(東南アジア諸国運合)には7月に加盟し、加盟国からの経済的経験を学んでいます。また、EC(ヨーロッパ連合)からは経済技術、貿易の包括的協力を得ています。

 

   行政面では、党治国家から法治国家に移行中で、今秋の国会で民法の基本法の整備を合意しました。

   経済面では、来年に証券取引所を開設することを決めたため、有力国営企業の株式会社化が図られています。なお、現在国営企業を管轄する上級役所が資産管理をしていますが、これも大蔵省の一つの局で資産を一括管理することとなりました。

   経済開放とODA援助受入れ等の外貨ラッシュが同時に進行し、舵取りが難しくなりました。

   95年現在、日本からは既にODAで600億ドルが入って来ました。これは殆ど北のインフラ整備に回されています。

   また、製鉄に関しては、韓国の浦項製鉄は高炉の一部を投資。日本の電炉メーカーは棒鋼に投資。フランスのトタールが意見の相違によりブンタオ地域での石油精製計画から手を引いたら、早速韓国、台湾から代わりの申し出があったそうです。その他では、日立造船はダナンに進出。タイ東レは漁網に投資しています。しかし、すぐに投資が回収されるというものではないので、最近の野村や住商による工業団地投資などは、駐在員仲間うちでは関所代と言われています。

 

  また、人件費は、田舎に行くと普通月30〜40ドルですが、街の工員クラスで平均月給70ドルです。なお、国営企業の総裁クラスは月150〜200ドル。ボーナスは最高2か月です。しかし、国民には先祖代々のたんす貯金、海外在住の親族からの送金、及び、様々な副収入があり、推定退蔵ドルは20億ドルと見られています。これらのアングラマネーがモ一ターバイクの購入などに際して、収入に比較して過大な実質購買力を押し上げていますが、政府ではインフラ投資に利用する道を探しています。

 

   ベトナム政府には統一されたマスタープランはありませんが、べトナムは元々農業国であり、また、重工業国を目指して失敗した共産圏の国々を見ているので、傾向としては輸出立国を目指しており、日用品、輸出商品(米、コーヒー豆)の拡充に努めています。

 

   間題点としては、@経済的自立観念の欠如です。これはお任せの観念で、ギブアンドテイクは無理です。Aベトナム側の慢心です。これは、嫁1人に婿10人のように各国からのべトナムヘの申し出は絶え間がないので、自信過剰になっている様に見受けられます。ODAの内容を地方政府の都合で勝手に変更したりして、何か感違いしているところが見受けられます。B密貿易、汚職、地価高騰、不動産投機です。これらを副収入として行い、収入の不足を補っています。C法律の未整備です。しかし、未整備であっても、合弁企業は目的意識を持って来るのが多いので、さほどの障害にはなりません。

 

   既存の企業との合弁に際しては、大蔵省が評価して掲示します。建屋、土地、機械のうち、土地はすべて国家のもので、長期借入権(土地使用権=Right of Land Use)を政府に認めてもらわねばなりません。

   なお、合弁に関し、パートナーと組むことのメリット、デメリットの相談については、現在では現地にコンサルタントも出現して来ていますので、従来とは違います。

   資材を外国から持って来て、機械ともども専門の技術員を派遣して張りつけ、賃加工のみ支払って、べトナムで作って、べトナムで売るのは、当面繊維など軽工業製品でないとだめです。しかし、外国に売るのはうまく行くと思われます。カントリーリスクはゼロではないが、市場経済化の流れは今後も変わらないと思われます。なお、資材の輸入関税は、企業化申講の際に届け出ていれば無税となります。また、日本・べトナム間のコンテナ輸送は、1週間ほどかかります。

 

   べトナムの造船業は、東欧や北欧フィンランドの技術が基盤になっています。海運総局(VlNAMARlNE)傘下の造船所と、通輸通信省(MOTAC)直轄のユニオン・オブ・シップビルディング・エンタープライジズ・オブ・べトナム(べトナム造船連合)所属の造船所を合わせても約15か所ですが、新造能力は最大2500〜3000GTトンです。この他に、ベトナム全土には河川航行や漁業用に19〜22mの木造船を1万4〜5千ドルで、3か月で造る舟大工が各地にいます。

 

   端的に述べると、北と南は別の国です。ホーチミンシチーは500万人、ハノイ市は350万人といわれていますが、合わせてもべトナム全人口の7200万人の15%に過ぎません。国民の大多数の85%は地方に住んでいますが、詳細は不明です。

 国民一人当たりGDPは全国平均で200〜250ドル。ハノイは440ドル。ホーチミンシチーでは880ドルといわれています。ODAは北のプロジェクトについています。中央政府では、南北格差是正が重要テーマになっています。ホーチミンシチーは人の流入制限がされており、新しい住民票はなかなか発行されません。 

 

   86年に外国に開放され、ドイモイ政策が進められ、漸く90年以降に本腰が入れられたことにより、92年4月以降べトナム貿易銀行で発行されたLCは問題がなくなりました。しかし、べトナム政府の外貨保有高は不明、原油埋蔵量も不明であり、本当のところは掴めておりません。

   LCは政府系の輸出入公司を通じて開くことになります。しかしどこでもいいわけではなく、規模もある程度が必要です。例えば、サイゴンシップヤードはいいが、アンプ造船所クラスはだめです。

 

   ベトナムで成功するのは、ややこしいときに出ていって一緒に苦労して相互理解していくことが必要ではないかと思われます。べトナムは他のアセアン諸国に比べてその国民性は勤勉で、勉強熱心です。プライドも高く、儒教精神も残っています。 

   7200万人の国内マーケットの存在と、もはや世界には未開のマーケットが他にないことにより、今やベトナムは世界の寵児です。外国からひっきりなしにやって来るミッションヘの対応も変わってきております。技術移転を早くやれとの方向です。 

   べトナムヘの投資は、現在は先行投資のみでしかありません。日本からは86年に初めて日商岩井が来ていますが、それ以来参入して来たどこの企業も赤字です。

おわり

第1回 べトナムの日常生活

第2回 べトナムの市場の現状と課題

第3回 べトポルテックス95(展示会)とベトナム企業状況

ベトナムの風景写真(少し時間がかかるかもしれません)