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大阪センチュリー交響楽団
「21世紀への第九」 in’98

日時
1998年12月29日(火)午後4:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
大阪センチュリー交響楽団/京都バッハ・アカデミー合唱団
独唱
大倉由紀枝(S)/竹本節子(A)/吉田浩之(T)/福島明也(Br)
指揮
佐渡裕
曲目
ベートーベン…交響曲第9番ニ長調《合唱》
座席
2階LA列25番(B席)

はじめに

これなんだか分かりますか? 実は今年年末に行われたシンフォニーホールでの第9演奏会に付けられたタイトルなんです。なんか客であるこっちの方が恥ずかしくなりません?

ちなみに前二つはテレマン室内管弦楽団(指揮・延原武春)と大阪フィルハーモニー交響楽団(指揮・小泉和祐)です。

さて、佐渡裕と言えばレナード=バーンスタイン最後の弟子という触れ込みですが、はてさていったいどんな音楽を聞かせてくれるのでしょうか。

交響曲第9番ニ長調《合唱》

最初に合唱のことを言っておくと、曲の最初から合唱団は後ろで座っていて、独唱はスケルツォが終わってから入場してきた。またソリスト達は合唱の前に立った。私はこの立ち位置の方が良いと思う。

またトロンボーンやコントラファゴットやピッコロなど最初から出ない楽器も初めからスタンバイしていた。(大太鼓、トライアングル、シンバルは席から見えず)

なぜか5人いたホルンの謎が今だ解けず。誰か教えて。

さて指揮者が入ってきて大きな拍手。……で、でかい。すっごい大男だ。存在感ばっちりで非常に舞台冴えする。これなら海外に行っても見劣りしない。

タクトを構えるとすぐにトレモロを奏で始めた。おおっ! その最初の一音からピリと神経が張りつめられた意志のある音が鳴り響いた。違う、違うぞ! 普通の音楽とはモノが違うぞ! 鳥肌が体の末端から中枢に向かって駆け上がっていく。最初の一鳴らしで指揮者の世界に引き込まれていった。そうなんだ。指揮とはこういう音をオケから引き出すことなんだ。アンサンブルが乱れないようにすれば良いのではない。これが指揮者という職業が持つ使命なのだ。

一昨日の演奏とはまったく格が違う。指揮者としてのランクはまさに最初に鳴った音ですでに決定されてしまう。

また佐渡の指揮姿だが、師匠であるバースタイン譲りの全身を使ったもので、まるで踊っているようだった。まさにレニーダンスならずユタカダンス。拍を刻むことはほとんどなく、曲に全身全霊を傾けてその指の先から表情まで全てを使って音楽を表現していた。またその指示は見てるこっちが唸るぐらい的確で、見事に曲の急所を捉えていた。

そして大阪センチュリー交響楽団もこの指揮者の指示に見事に応えて素晴らしい演奏をした。優秀なサラブレッドは騎手のちょっとした合図に素早く的確に反応すると聞くが、今日のセンチュリーもそうだったと言える。指揮者が全身で表現する音楽の意味を的確に捉え瞬時にそれを音にする。お見事。

では手短に演奏の内容を伝えると、第1楽章はこの楽章の持つドラマを前面に押し出した演奏。壮絶な戦いの音楽。先ほど言ったように最初の一鳴りで演奏に引き込まれた。

スケルツォは繰り返し無しのオーソドックスな解釈。指揮台でぴょんぴょん跳ねる姿がかわいらしかった。実際、第1楽章では恐い顔をしていたが、この楽章ではニコニコと笑みを絶やさなかった。

アダージョはやや早めかなー、と思う感じですっきりとしたイメージ。まあ、あの年でこの楽章の持つ瞑想的な深さを表出するのは難しい。

終楽章だけは少し細かく述べると、各変奏の持つキャラクターをきっちりと出した演奏で、合唱が加わると佐渡は合唱団に対してもビシビシ指示を出していた。また合唱団と一緒に口パクで歌い、発音しにくい子音の所では「もっと口を開けて。……ほら来い!」と身振りで正しい発声を導き出した。このせいだろう、合唱はとてもよく声が出ていて歌詞が明瞭に聞き取れることができた。ただフーガの所では片方の旋律が弱く2つの旋律が絡みつく感じが薄かった。

またやや押さえられているようなイメージだった金管陣がうっぷんを晴らすかのように自分の持てるパワーを全て放出していた。いや、金管だけでなくコーラスも含め全員がそうだった。喜びを全て解放するような最後のプレスティッシモではまさに爆発だった。

最後の和音と同時に割れんばかりの拍手、そしてブラボー。今日の演奏は文句無しにブラボー級だ。

指揮台上では憑き物が落ちたように佐渡が憔悴しきってげっそりしていた。全てを出し切ったのだろう。こんな所も師匠似だ。舞台そでに引っ込むときもヨタリ、ヨタリと大きな体を引きずっていった。

何度も何度も受けるカーテンコール。合唱指揮者や独唱陣も交えて全員起立で応える。そして最後に佐渡が客席に向かって大きく「バイバーイ」とするとオケも解散して今日の演奏会が終わった。

おわりに

いやー本当に良い演奏会だったわ。これだったら27日の演奏会なんていらなかったな。それにしても将来が大変楽しみな指揮者がまた私の前に現れた。しかもシャーマンタイプ。まだ37歳。この先彼がどのように成長していくか注目していきたいと思う。取り敢えずはガンガン海外へ出ていって欲しい、彼は日本でグズグズしてるような器ではない。

総じて、シャーマンの魅力に引き込まれた演奏会でした。

余談ですが、みなさんお風邪などお召しになっていらっしゃらないでしょうか? この季節突然喉や鼻の調子が悪くなることがあります。ぜひともハンカチを携帯の上お出かけ下さいませ。

え? なんでそんなこと押しつけがましく言うのかって? それは……おい! 2階席LA列23番の野郎! てめー鼻水じゅるじゅる言わせてんじゃねえよっ。(スンスンじゃなくて急降下する鼻水を吸い上げるようなじゅるじゅる) そんな時は鼻紙かハンカチで鼻水を拭うんだよっ。素晴らしい音楽に没頭していただけにこの「じゅるじゅるじゅる」はさすがにプチ〜ンといきそうになった。連れの女も知らんぷりしねーで、ティッシュを渡してやれよ。ひとつやふたつ足下のバックに入ってんだろ? 男も男なら女も女だ。(注意)この哀れな男性は女性同伴だったために表現が5倍増しで過激なものとなっております。これはやっかみ以外の何者でもありませんので寛容なお心でお読み流し下さい。

これも余談だが近くの席に座った女性が胸元の開いた上着にタイトなミニスカートと言う出で立ちで、オマケに黒い網目のストッキングだった。

演奏が始まる前まで、もう気になって気になってそっちの方ばっかり見ていた、と言うのは君と僕との内緒だ。(こんなモノ書く方も書く方だ)


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