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大阪フィルハーモニー交響楽団
「第9シンフォニーの夕べ」 in’98

日時
1998年12月30日(水)午後7:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団/大阪フィルハーモニー合唱団
独唱
岩永圭子(S)/伊藤直子(A)/若本明志(T)/多田羅迪夫(Br)
指揮
朝比奈隆
曲目
ベートーベン…交響曲第9番ニ長調《合唱》
座席
1階GG列R27番(S席)

はじめに

1年を締めくくるのはやはりこの人、と言うことでお爺ちゃんの演奏会に行って来ました。しかし30日までやってるのなんて全国でもここぐらいじゃないだろうか? 31日晩からのジルベスターコンサートはどちらかと言えば新年だもんな。

座席はボックス席Eの3列後ろの右端。一応S席だけど全然満足できない。

フェスティバルホールはD列ぐらいからP列までの1番から16番までじゃないと話にならないと個人的に決定しました。(ボックスもBからDまでだな)

余談ですが1階のボックス席の横を抜けてすぐ(DD列27番と28番の間)の階段。ここの段差を早急に改良しないといけないと思います。年寄りがこの段差につまずく、つまずく。私が見ただけで5,6人が転んだ。これは異常なことなんで早めに手を打った方が良いと思います。

多分この段から急に足の踏みしろが広くなって段差が大きくなるため、足を出すリズムが狂うんだと思われる。

そんなことを考えている内に開演時間がやってきた。

交響曲第9番ニ長調《合唱》

さて、指揮者が登場する前に演奏者がステージに上がったが、コーラス、独唱、打楽器群の全てが先に入場する。独唱の立ち位置はコーラスの前だ。自分の考えと御大の考えが一緒なのがとても嬉しい。やはりこれが1番だと思う。

2倍に増やした管楽器がすごい存在感を誇示していた。また合唱団もシンフォニーホールの2倍はあろうか総勢200名以上がステージの奥に陣取った。

指揮者がゆっくりとした足取りで登場すると会場中がものすごい拍手で沸き上がった。指揮台に上がるとすうっと拍手が静まる。朝比奈が棒を振り下ろすとドイツの深い森を思わせるトレモロが鳴り響いた。

第1楽章は劇性を煽ることのしない雄大な演奏。といってもテンポは思ったほど遅くはなかった。

スケルツォは中庸的なテンポだった。また繰り返しをすべて行ったきちーっとした演奏だ。

このスケルツォは全4楽章中一番もの足らない楽章だが、繰り返しを行うことでその不満は解消されて他の3つの楽章ともボリューム的に釣り合いが取れるのだと思う。

アダージョは朝比奈にしては割と早めのテンポで進められていった。瞑想するような深刻なものではないが、それでも慈しみの溢れた演奏で、例えが悪いが「良いダシの効いている」演奏だった。

ただフルートの音が強く出過ぎていて木管のバランスを崩していたように見える。トップの人が真っ赤になってソロを吹いていたが音がデカ過ぎて努力が報われていない気がした。

フィナーレは最初のファンファーレから速いテンポで進んでいき「おっ、どうなるんだろ?」と思っていた所、チェロが歓喜のテーマを引くところからテンポが落ちていつもの速さとなった。御大はどっちのテンポでやりたかったのかな?

ソリスト4人の出来には満足していない。

ソリストのカデンツァ後は壮大な感じが良く出ていて、最後のプレスティッシモの追い込みはすごい疾走感だった。

曲が終わるとものすごい拍手と歓声が起こった。一度舞台袖に引っ込んでも拍手が止まないので再度ソリスト達と合唱指揮を連れて登場。このとき御大は会場中に目を走らせ観客ひとりひとりの顔を見る。ちょっとしたことだが、これがとても嬉しい。

おわりに

ここ最近の御大はすっかり枯れきった音楽を聞かすようになった。まったく力んだ所がなく、ホントに悠々と音楽が流れていく。ただ以前はあった音のしなやかさも失われつつあるような気がする。ブルックナーの全集の頃はまだ剛胆にオケを鳴らせていたが、ベートーベンの全集の頃にはそれが影を潜めてしまい音楽の瑞々しさと呼吸の深さだけが残った。しかし98年に入って今それすらも薄れていこうとする。

それを打破しようと色々やっているのが前の神戸公演や今日の演奏などで見て取れる。今度ドヴォルザークやシベリウスなど彼にとって珍しい曲を取り上げることもきっと関係しているだろう。彼は90を過ぎてなお自分の殻を破ろうとしている。

朝比奈隆の音楽はどこに流れていくのだろう。

総じて、人生の黄昏を垣間見る演奏でした。

この会場で来年にする大フィル定期公演の予定表を貰ったので明日にでもアップしたいと思います。朝比奈のブルックナーありまっせ。

蛍の光

オケが解散した後も続けられる拍手に応えて御大がステージに三度登場しました。椅子の背もたれに掴まり万雷の拍手を浴びるとゆっくりと舞台袖に帰って行きました。

するとステージの照明がすうっと落ち会場中が真っ暗になりました。スタッフが椅子と指揮台を素早く舞台奥に詰めるとオーケストラピットが開き、スポットライトが細く指揮台に注がれました。

暗闇の中に指揮台が浮かび上がると合唱指揮者がステージに現れました。するとそれまで舞台奥に控えていたコーラスの人がひとりひとりの胸にペンライトを掲げました。蛍のような緑色の光点が200並びます。

恒例の「蛍の光」です。

指揮者も右手にペンライトを持つとその緑の光で指揮をしました。ぼんやりとブルーの照明がステージを照らします。スモークが焚かれました。その白い煙がオーケストラピットに吸い込まれます。

2番まで歌われると後はハミングです。曲が進むに連れてペンライトが1列ずつ順に消えていきます。ハミングで最後まで歌われる頃には全ての明かりが消え、再び会場は闇に帰っていきました。そして緞帳が降ろされ98年のクラシックも終わりを迎えました。

みなさん良いお年を。


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