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ヨーロッパ室内管弦楽団 大阪公演

日時
200011月3日(金・祝)午後7:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
ヨーロッパ室内管弦楽団
独奏
ミッシャ・マイスキー(Vc)
指揮
エマニュエル・クリヴィヌ
曲目
1.メンデルスゾーン…序曲「フィンガルの洞窟」
2.シューマン…チェロ協奏曲 イ短調
3.シューマン…交響曲第2番 ハ長調
座席
1階P列16番(S席)

はじめに

 客席に座って周りを見渡すとやけに空席が目立つ。2階サイド席なんかガラガラだ。
 曲目が地味だったため興味が湧かなかったのだろうか? 私から言わせてもらうとウィーンフィルよりもよっぽどエキサイティングな団体と思うのですがね。

メンデルスゾーン…序曲「フィンガルの洞窟」

 曲の出だしこそほんの少し不揃いさを見せたアンサンブルだったが、後は順調に音楽は進んでいった。まあ1曲目ということで熱く燃焼することはなかったが、それでもそつなくこなしたものだった。
 曲が終わるとひとまず拍手が起こったが、指揮者が退場するとその拍手がすぅと止みかけたのだった。「これはヤバイ」と思っているとすぐに指揮者が答礼に現れて事なきを得た。
 こんなことでこの演奏会が失敗したらどうすんだ。お義理でももうちょっと拍手を送ってやろうぜ、そんな冷淡な態度を示すような演奏では決してなかった。

シューマン…チェロ協奏曲

 第1Vnの人達が自分で椅子を後ろに下げると、チェロのお立ち台と椅子が運び込まれた。
 お立ち台には弦楽器と同じ模様のスリットが入れられ、椅子の背もたれにはチェロが銀線(?)であしらわれていて、一見しただけで特注と判るものがセットされた。
 マイスキーは白いシャツで現れると、客席にペコリと頭を下げた。

 この曲はハイドン、ドボルザークのものと並び、三大チェロ協奏曲と謳われ、彼のピアノ協奏曲と同様に独奏楽器と管弦楽が渾然一体となった響きを形作る。しかし今日はオケが手を抜いていたのか、マイスキーのチェロが鳴りまくっていてオケを完全に圧倒していた。
 技巧的には特に問題がないのは当然、音に色気がないもの旋律を存分に歌い上げていて見事だった。
 また曲に没頭しているマイスキーはソロが休止している時もオケパートのメロディを体に揺さぶりながらうんうん唸っていた。
 曲が終わると今度は大きな拍手が起こった。まさにマイスキー独り舞台だった。

シューマン…交響曲第2番

 シューマンの交響曲についてはここに書ききれないほど言いたいことがあるけど、それはいつか「CD菜園s」でたっぷり述べることとして、ここでは簡単に書くが、彼の交響曲は(ブラームス以上に)渋くて取っつきにくいが、ベートーベンから受け継いだ“交響曲”というものが持つ存在意義を(ブラームス以上に)深く追求したものと言える。特に今日の第2番は彼の管弦楽曲中最高傑作と言われる第4番に肩を並べる内容を持っている。
 しかし余りにも渋すぎる(シベリウスの4番並の)曲想が客には敬遠され、いくら難しいをやっても(ブルックナーの初期交響曲のように)ちっとも演奏効果が上がらない(盛り上がらない)ので演奏家もやりたがらない。結果内容の割にはステージに上げられることが少ない曲となっている。これと同じ渋すぎてステージに上がらない曲にフランクの交響曲が挙げられる。

 このコンビはルツェルン音楽祭でこの曲を取り上げて大絶賛を受けているだけに、充分練り上げられたレパートリーとなっている。だから今日の演奏はかなりの期待が持てるはずだ。
 で、演奏が始められると、前半とは打って変わったような気迫がビシビシと伝わってきた。人数的には大阪センチュリーと同じ編成なのに、そのフォルテにおけるダイナミックさは4管のオケにも匹敵するものであった。それでいながら音の緻密さは素晴らしく、特に弦の粒がそろった繊細な響きはチェンバーオーケストラを聞く醍醐味をたっぷりと味わうことができた。
 第1楽章冒頭のトランペットのバランスがやや強すぎたの(と言っても、あれ以上小さい音をトランペットは出せない)を除くと、鬼気迫るような迫力が曲中に満ちたもので、この楽章が終わった際には拍手が起こったほどであった。(補足しておくと、決して客がこの楽章で全曲が終わったものと勘違いして拍手したのではない。この楽章が素晴らしすぎたから拍手せずにはいられなかったのだ)
 中間の2つの楽章はまるでショスタコーヴィッチのように諧謔性と悲痛さが溢れたイタイ音楽だ。
 このテンションはフィナーレでも持続し、螺旋階段を登るように苦悩からの解放を目指していく音楽はまさに渾身の演奏だった。コントラバスの人など弓をへし折ってしまったほどだ。
 これほどの演奏はCDでも滅多にないほどの名演だと言える。

アンコール

 曲が終わると今日一番の拍手が起こったが、なぜか熱狂的な所はなかった。ものすごい演奏をしているのにどうして? やはり曲が渋すぎたか。私は大喝采を送らせてもらった。
 しかし解る人には解るようで、金管部隊が立ち上がると「ブラボー」の声が飛んでいた。
 あまりパッとしない拍手だったが、ずっと拍手を続けているお客に対してアンコールをやってくれた。
モーツァルト…交響曲第33番よりフィナーレ
 たださっき弓を折ってしまったコントラバスの人だけは演奏することができなかったので、ひとり居心地の悪そうな顔をしていた。同じパートの人が「取りに行けよ」と言っていたみたいだが。
 アンコールが済むとさっとオケが解散して演奏会の幕が降ろされた。

おわりに

 総じて、シューマンサイコーの演奏会でした。
 こういう曲なんかもっと大阪センチュリーが取り上げれば良いのにと思う。

 さて、この次の日は朝比奈&N響のブルックナーの交響曲第4番を聞きに東京まで討ち入りに行って来ます。日帰りという強行軍ですが、頑張って行って来ます。


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